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【若手医師必見】LDL167…治療すべき?放置していい?脂質異常症の正しい判断軸とは?

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ある日の外来

健康診断の結果を心配して、60代の男性が来院されました。

先生、健康診断でコレステロールが高いといわれたんだけどどうしたらいいですか。

健康診断の結果をみると、肝臓の機能も腎臓の機能も特に問題なく、貧血なし。

ただ1つだけ LDL が167で、医療機関受診推奨と記載があった。

この患者さんは心筋梗塞、脳卒中といった既往歴もない。

タバコは30代前半でやめている。

このケースのように、目の前の患者さんを前に、「今すぐ治療すべき?それとも経過観察でよいのか?」迷ったことはありませんか?

若手医師にとって、脂質異常症の治療開始タイミングは、特に難しい判断ポイントの一つです。

【若手医師必見】LDL167…治療すべき?放置していい?脂質異常症の正しい判断軸とは

こんにちは。医療法人社団 緑晴会 あまが台ファミリークリニック院長の細田俊樹です。

私自身はプライマリ・ケア 総合診療を専門に医師として25年目になります。

クリニックを開業して5年以上が経ちますが、現在では年間延べ4,000人以上の糖尿病の患者さんを診察しております。

今回は、脂質異常症の定義から、リスク評価の方法、実際に治療を開始する基準まで、エビデンスに基づいてわかりやすく解説します(※1)(※2)。

脂質異常症とは?定義を正しく押さえる

脂質異常症は、血中脂質の異常(主にLDLコレステロールの高値、HDLコレステロールの低値、中性脂肪の高値)を指します(※1)。

特にLDLコレステロールは動脈硬化のリスクに直結するため、診断と管理が重要です(※1)。

基準値は以下の通りです(※1)。

  • LDL-C ≧ 140 mg/dL
  • HDL-C < 40 mg/dL
  • TG(中性脂肪)≧ 150 mg/dL

つまり、LDL 167 mg/dLは明らかな脂質異常症に該当します

若手Dr
「でも、数値が高いだけで本当にすぐ薬を出していいのかな…?」

LDL167mg/dLは異常か?

結論から言えば、LDL 167 mg/dLは確かに「高い」ですが、
「即スタチン開始」ではなく、まずリスク評価が必要です。

なぜなら、LDL-C単独の数値だけでは、将来の心血管イベントのリスクを正確に判断できないからです。

リスク評価:久山町スコアを使いこなす

ここで重要になるのが、「久山町スコア」です。

久山町スコアのポイント計算方法

日本人の疫学データに基づき、久山町スコアは以下の6つの項目を評価して、ポイントを合計することで脳心血管疾患リスクを推定します。

  • 性別
  • 収縮期血圧
  • 血清LDLコレステロール値
  • 血清HDLコレステロール値
  • 糖尿病の有無
  • 喫煙の有無

「えっ、LDLだけじゃなくて、血圧や喫煙歴も見るんだ!」

そうなんです。様々な要因をポイントにして計算するんですね。

① 性別

  • 女性:0点
  • 男性:7点

▶ 男性はリスクが高いため、最初から7点加算されます。

② 収縮期血圧(最高血圧)

  • <120 mmHg:0点
  • 120〜129 mmHg:1点
  • 130〜139 mmHg:2点
  • 140〜159 mmHg:3点
  • 160 mmHg以上:4点

▶ 血圧が高くなるほど、段階的にリスクが上がる設計です(※5)。

「140以上だと一気に3点もつくんだな…血圧管理ってやっぱり大事だ」

実際に研究では脂質異常よりも高血圧の方が脳卒中や心筋梗塞のリスクとしては高いことがわかっています。

③ 血清LDLコレステロール値

  • <120 mg/dL:0点
  • 120〜139 mg/dL:1点
  • 140〜159 mg/dL:2点
  • 160 mg/dL以上:3点

▶ LDLが高いと動脈硬化リスクが増えるため、ポイントも高くなります。

④ 血清HDLコレステロール値

  • 60 mg/dL以上:0点
  • 40〜59 mg/dL:1点
  • <40 mg/dL:2点

▶ HDLは「善玉コレステロール」ですが、低いとリスクが上がります。

⑤ 糖尿病の有無

  • なし:0点
  • あり:5点

▶ 糖尿病はそれだけで強力なリスク因子となり、大幅加点されます。

 

「糖尿病があるだけで一気に5点…重要視されてるのがよくわかるな」

⑥ 喫煙の有無

  • なし:0点
  • あり:2点

▶ 喫煙習慣があると、心血管リスクがさらに高まります。

ポイント合計とリスク推定

①〜⑥それぞれのポイントを加算し、合計得点をもとに年齢別リスク推定表を参照します。

「数値だけじゃなく、背景リスクもちゃんと評価するのが重要なんだな!」

これにより、患者ごとの10年間の脳心血管疾患発症リスクを、より正確に推定することができます(※4)。

ポイント合計ごとの10年後リスク推定(年齢別)

ポイント合計 40〜49歳 50〜59歳 60〜69歳 70〜79歳
0 <1.0% <1.0% 1.7% 3.4%
1 <1.0% 1.9% 3.9% 4.5%
2 <1.0% 2.0% 4.6% 5.4%
3 <1.0% 2.2% 5.6% 6.5%
4 <1.0% 2.6% 6.8% 7.8%
5 <1.0% 3.4% 8.2% 9.6%
6 1.0% 4.0% 9.5% 11.2%
7 1.0% 5.2% 11.4% 13.2%
8 1.2% 6.4% 13.3% 15.5%
9 1.3% 7.7% 15.4% 18.0%
10 1.9% 9.1% 17.6% 20.7%
11 2.6% 10.4% 20.0% 23.7%
12 3.2% 11.9% 22.5% 26.9%
13 4.0% 13.5% 25.1% 30.3%
14 4.6% 15.0% 27.8% 33.8%
15 5.2% 16.6% 30.6% 37.5%
16 5.9% 18.3% 33.5% 41.3%
17 6.5% 20.0% 36.5% 45.2%
18 7.2% 21.8% 39.6% 49.3%
19 7.9% 23.7% 42.8% 53.5%

※ 青:低リスク(1〜4%未満)、黄:中リスク(4〜10%未満)、赤:高リスク(10%以上)

このスコアを活用することで、患者さん個々のリスクを科学的に把握し、適切な治療開始の判断ができるようになります。

例えば、40代男性で、血圧140/90、LDL 167、HDL 45、糖尿病なし、喫煙ありなら、
久山町スコアは中リスク以上に分類される可能性が高いです。

「リスクスコアをちゃんと使えば、感覚じゃなくてエビデンスで判断できるんだな!」

治療開始の判断基準とは

 

リスクに応じた治療開始基準は以下の通りです。

  • 低リスク群(スコア<12):LDL 180以上で治療
  • 中リスク群(スコア13〜24):LDL 160以上で治療
  • 高リスク群(スコア25以上または既往歴あり):LDL 140以上で治療
  • 超高リスク群(スコア29以上):LDL 100以上でも治療

つまり、中リスク以上であれば、LDL 167は治療対象になります。

 

Fire and ForgetとTreat to Target、どちらを選ぶ?

スタチン治療には2つのアプローチがあります。

  • Fire and Forget:スタチンを開始し、LDL値に関係なく続ける
  • Treat to Target:LDL値を目標値まで下げることを目指す

日本では「Treat to Target」が主流で(※1)、リスクに応じたLDL目標値は次の通りです。

  • 低リスク:LDL<160
  • 中リスク:LDL<140
  • 高リスク:LDL<120
  • 超高リスク:LDL<100、場合によっては<70

したがって、治療開始後もLDL値をしっかり追いかける必要があります。

若手Dr
「ただ薬を出すだけじゃダメ!ちゃんと数値目標まで管理しないといけないんだ!」

まとめ

LDL 167 mg/dLという数値だけで即治療を判断するのではなく、
  • まずリスク評価(久山町スコア)を行い、
  • リスクに応じた治療開始基準を理解し、
  • 治療後は目標値(Treat to Target)を目指して管理する
これが、脂質異常症治療の正しい基本戦略です。

若手医師であっても、この流れさえ押さえれば、目の前の患者さんに自信を持って対応できるようになります。

ぜひ、日常診療で実践してみてください!

参考文献

    1. 日本動脈硬化学会(JAS).動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.2022年.
    2. Mach F, et al. 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk. Eur Heart J. 2020;41(1):111–188.
    3. Sekikawa A, et al. Much lower prevalence of coronary artery calcification in Japanese men than in white men. Circulation. 2005;111(22):2973–2979.
    4. Sekikawa A, Ueshima H, et al. Cardiovascular disease risk assessment based on the Hisayama Study. Neurology. 2009;73(24):1907–1913.
    5. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019).2019年.

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この記事の監修者
細田 俊樹
  • 医療法人社団緑晴会 あまが台ファミリークリニック 理事長
  • 日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医

年間15,000人以上の患者さんを診察している総合診療専門医。
総合診療という専門分野を生かし、内科、皮膚科、小児科、生活習慣病まで様々な病気や疾患に対応している。
YouTubeでよくある病気や患者さんの疑問に対して解説している

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