院長ブログ

脂質異常症はLDLだけで決めない|10年・30年後の心筋梗塞・脳卒中リスクと治療を医師が解説

健康診断で「LDLコレステロールが高い」と言われると、次のような疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。

  • LDLが高ければ、すぐに薬を飲まなければいけないの?
  • 同じLDLの数値でも、薬を勧められる人と経過観察になる人がいるのはなぜ?
  • 今は症状がないのに、本当に治療が必要なの?
  • コレステロールを下げると、将来どのくらい病気を防げるの?

結論からお伝えすると、脂質異常症の治療方針は、LDLコレステロールの数値だけでは決まりません。

現在は、年齢、喫煙、血圧、HDLコレステロール、糖尿病、腎機能などを合わせて、今後10年間、さらに30年間に心筋梗塞や脳卒中、心不全を起こす可能性を評価し、その人に合った治療を考える時代になっています。

大切なのは「LDLが高いか」だけではなく、「そのLDLを放置したときに、その人が将来どのくらい病気を起こしやすいか」です。

こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田俊樹です。

私は医師歴25年の家庭医療専門医として、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を含め、地域の患者さんを総合的に診療しています。

この記事では、日本動脈硬化学会、日本循環器学会、2026年の米国ACC/AHA脂質異常症ガイドラインなどを踏まえ、脂質異常症をどのように評価し、治療方針を決めるのかを、できるだけ分かりやすく解説します。

脂質異常症とは?まず確認したい4つの数値

脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準から外れた状態です。

代表的には、次の4つを確認します。

検査項目 主な意味 スクリーニング基準
LDLコレステロール 血管壁に蓄積し、動脈硬化を進める主要因 140mg/dL以上
HDLコレステロール 余分なコレステロールの回収に関係する 40mg/dL未満
中性脂肪(TG) 食事、飲酒、肥満、糖尿病などの影響を受ける 空腹時150mg/dL以上、非空腹時175mg/dL以上
non-HDLコレステロール 動脈硬化に関係する脂質を広く評価する指標 総コレステロール-HDLで計算

脂質異常症とは?まず確認したい4つの数値
ただし、ここで注意が必要です。

診断基準を超えたことと、直ちに薬が必要であることは同じではありません。

LDLコレステロールが150mg/dLでも、年齢が若く、非喫煙者で、糖尿病や高血圧がない方と、喫煙中で糖尿病があり、すでに動脈硬化が進んでいる方では、将来の危険度が大きく異なります。

なぜLDLの数値だけで治療を決めないのか

動脈硬化は、1つの要因だけで進むとは限りません。

血管を道路に例えると、LDLコレステロールは道路にたまる「ごみ」のようなものです。

しかし、同じ量のごみがあっても、道路が新しく傷んでいない人と、喫煙、高血圧、糖尿病などによって道路が傷ついている人とでは、詰まりやすさが異なります。

したがって、次のような要素をまとめて評価します。

  • 年齢
  • 性別
  • LDLコレステロール
  • HDLコレステロール
  • 血圧
  • 喫煙の有無
  • 糖尿病の有無
  • 慢性腎臓病の有無
  • 心筋梗塞や脳卒中の家族歴
  • 肥満や中性脂肪
  • すでに動脈硬化性疾患を起こしているか

これらを総合すると、同じLDLコレステロールでも、目指すべき管理目標が変わります。

10年後と30年後のリスクを考える意味

10年後と30年後のリスクを考える意味

10年リスクは「近い将来の危険度」

10年リスクとは、今後10年間に心筋梗塞や脳卒中などを起こす可能性を推定する考え方です。

年齢が上がるほど、一般的に10年リスクは高くなります。

そのため、50~70代の方では、10年リスクが治療方針を決める重要な材料になります。

30年リスクは「生涯にわたる蓄積」を見る

一方、30~40代の方は、たとえLDLが高くても、年齢が若いという理由で10年リスクが低く算出されることがあります。

しかし、LDLコレステロールが高い状態が30年間続けば、血管は長期間にわたり負担を受け続けます。

そこで米国では、30~79歳の一次予防患者に対し、10年リスクだけでなく30年リスクも評価する考え方が導入されています。(※1)

若いから安心、とは限りません。

10年リスクが低くても、LDL高値、喫煙、糖尿病などが長く続く場合は、30年後まで考えると無視できないリスクになることがあります。

心不全のリスクも評価できる時代へ

最新のAHA PREVENTという予測モデルでは、動脈硬化性心血管疾患だけでなく、心不全や心血管疾患全体について、10年・30年リスクを推定できます。(※2)

ただし、脂質異常症の薬物治療を決める際には、心不全リスクだけを見て決定するわけではありません。

糖尿病、血圧、肥満、腎機能、喫煙などを含め、心臓・腎臓・代謝の状態を総合的に確認するための材料として利用します。

患者さんごとに確認する6つの重要項目

患者さんごとに確認する6つの重要項目

1.タバコ

喫煙は、血管の内側を傷つけ、血栓をできやすくし、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。

LDLがそれほど高くなくても、喫煙していることで全体のリスクが大きく上昇する場合があります。

特に糖尿病と喫煙が重なる場合、日本のガイドラインでも、より厳しいLDL管理を検討します。(※3)

2.年齢

年齢は、心血管疾患リスクに強く影響します。

同じLDL値でも、35歳と70歳では、今後10年間のリスクは大きく異なります。

ただし、若い方は10年リスクだけでは危険性が過小評価される可能性があるため、LDLの高さ、家族歴、30年リスクも確認します。

3.LDLコレステロール

LDLコレステロールは、動脈硬化の中心的な原因です。

一般に、LDLが高いほど、また高い状態が長く続くほど、血管に蓄積する負担が大きくなります。

特にLDLが著しく高い場合や、若い頃から高値が続く場合は、家族性高コレステロール血症も検討します。

4.HDLコレステロール

HDLコレステロールが40mg/dL未満の場合は、低HDLコレステロール血症と判断します。

ただし、HDLを薬で上げれば必ず心筋梗塞を防げる、という単純なものではありません。

禁煙、運動、体重管理、中性脂肪や血糖の改善など、背景にある生活習慣や代謝異常を整えることが重要です。

5.糖尿病の有無

糖尿病は、冠動脈疾患の重要な危険因子です。

特に次の条件がある場合は、より高いリスクとして考えます。

  • 喫煙している
  • 糖尿病性腎症がある
  • 糖尿病網膜症がある
  • 糖尿病神経障害がある
  • 末梢動脈疾患がある

日本のガイドラインでは、このような高リスクの糖尿病患者では、一次予防であってもLDLコレステロール100mg/dL未満を考慮します。(※3)

6.人種・民族的背景

以前の米国のリスク計算では、人種を計算項目として使用するモデルがありました。

しかし、現在のAHA PREVENTは、人種や民族を計算項目に含めないモデルです。(※2)

人種を生物学的な危険因子として単純に扱うのではなく、血圧、脂質、糖尿病、腎機能、喫煙など、実際に測定可能な因子を用いて評価します。

また、PREVENTは米国の成人データから作られたモデルです。

日本人の診療では、日本動脈硬化学会や日本循環器学会による日本人向けのリスク評価を基本とし、米国の30年リスク評価は補助的に参考にすることが重要です。

日本ではどのようにリスクを分類するのか

日本では、冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞をすでに起こしたことがあるかを、最初に確認します。

すでに心筋梗塞、狭心症、動脈硬化性脳梗塞などがある場合は、再発を防ぐ「二次予防」となり、より厳格な管理が必要です。

これらがない一次予防の場合は、年齢、性別、血圧、糖代謝、LDL、HDL、喫煙などから、10年間の動脈硬化性疾患リスクを評価します。

日本の一次予防リスク 10年間の発症リスク LDL管理目標
低リスク 2%未満 160mg/dL未満
中リスク 2%以上10%未満 140mg/dL未満
高リスク 10%以上 120mg/dL未満
高リスクの糖尿病 合併症または喫煙などあり 100mg/dL未満を考慮

これらはあくまで代表的な目標です。

家族性高コレステロール血症、慢性腎臓病、末梢動脈疾患、すでに発症した心血管疾患などがある場合は、別の判断が必要になります。

米国の最新ガイドラインではどう考えるのか

2026年のACC/AHA脂質異常症ガイドラインでは、30~79歳で、心筋梗塞や脳卒中をまだ起こしていない方について、PREVENT-ASCVDを用いた10年・30年リスク評価が推奨されています。(※1)

10年リスクは、次のように分類されます。

分類 10年リスク 考え方
低リスク 3%未満 生活習慣を中心に管理
境界リスク 3%以上5%未満 追加の危険因子を含めて薬物療法を検討
中間リスク 5%以上10%未満 脂質低下薬を積極的に検討
高リスク 10%以上 より厳格な脂質管理を行う

米国の2026年ガイドラインでは、境界リスク・中間リスクではLDL100mg/dL未満、高リスクではLDL70mg/dL未満を目標とする考え方が示されています。(※4)

ただし、この数値を日本人にそのまま当てはめるわけではありません。

日本と米国では、心筋梗塞や脳卒中の発症頻度、患者背景、使用するリスク計算式が異なるため、当院では日本のガイドラインを基本にしながら、必要に応じて海外の最新知見も参考にします。

リスクがはっきりしない場合に追加する検査

頸動脈エコー

首の血管を超音波で観察し、血管壁の厚さやプラークの有無を確認します。

痛みや放射線被ばくがなく、実際に動脈硬化が進んでいるかを確認する材料になります。

冠動脈石灰化スコア(CAC)

米国のガイドラインでは、薬を始めるか迷う境界・中間リスクの方に対し、冠動脈の石灰化をCTで確認する方法が提案されています。(※1)

日本では誰にでも行う検査ではありませんが、リスク判断が難しい場合の選択肢になります。

Lp(a)

Lp(a)は、遺伝的な影響を強く受ける脂質関連の指標です。

2026年の米国ガイドラインでは、成人が生涯に一度は測定することが推奨されています。(※4)

若年発症の心筋梗塞が家族にいる方や、通常の危険因子だけでは説明できない動脈硬化がある方では、特に参考になります。

ApoB・non-HDLコレステロール

糖尿病、高中性脂肪血症、肥満などでは、LDLだけでは動脈硬化を起こす粒子の数を十分に反映しない場合があります。

その場合、non-HDLコレステロールやApoBが参考になります。

健康診断でコレステロールを指摘され、「自分は薬が必要なのか」「今後どの程度のリスクがあるのか」を確認したい方は、検査結果をご持参のうえご相談ください。

脂質異常症のリスクがはっきりしない場合に追加する検査

治療は生活習慣の改善から始める

一次予防では、まず生活習慣を整えることが基本です。

食事

  • 脂身の多い肉、加工肉、バター、生クリームを摂りすぎない
  • 魚、大豆、野菜、海藻、きのこを取り入れる
  • 菓子類や糖分の多い飲料を控える
  • 中性脂肪が高い場合は、飲酒量も見直す
  • 体重増加がある場合は、総摂取エネルギーを調整する

食事

運動

ウォーキングなどの有酸素運動に加え、可能な範囲で筋力トレーニングを組み合わせます。

運動は、体重、血圧、血糖、中性脂肪、体力をまとめて改善する可能性があります。

禁煙

喫煙している方では、コレステロールの数値だけを下げるより、禁煙を含めて対策することが非常に重要です。

「本数が少ないから大丈夫」とは言えません。

薬物治療が必要になるのはどのような人?

代表的には、次のような方で薬物治療を積極的に検討します。

  • すでに心筋梗塞、狭心症、動脈硬化性脳梗塞などがある
  • 10年間の心血管リスクが高い
  • 糖尿病や慢性腎臓病などを合併している
  • 喫煙、高血圧など複数の危険因子が重なっている
  • LDLが著しく高い
  • 家族性高コレステロール血症が疑われる
  • 生活習慣を改善しても管理目標に届かない
  • 頸動脈や冠動脈に明らかな動脈硬化がある

スタチン

LDLコレステロールを下げる治療の中心となる薬です。

心筋梗塞や脳卒中を予防するエビデンスが最も蓄積しています。

エゼチミブ

小腸からのコレステロール吸収を抑える薬です。

スタチンだけで目標に届かない場合や、スタチンを十分量使用できない場合などに検討します。

PCSK9阻害薬など

家族性高コレステロール血症や、心血管疾患の再発リスクが非常に高い方などで使用を検討します。

「薬を一生飲むのが怖い」という方へ

「一度薬を始めたら、一生やめられないのでは」と不安になる方もいます。

確かに、体質や年齢、既往歴によっては、長期間の治療が望ましい場合があります。

しかし、重要なのは、薬を飲むこと自体が目的ではありません。

将来の心筋梗塞、脳卒中、心不全などを防ぎ、元気に生活できる期間を延ばすことが治療の目的です。

薬の必要性は、数値、生活習慣、リスク、効果、副作用、ご本人の希望を確認しながら決めます。

「高いからとりあえず薬」でも、「症状がないから放置」でもありません。

まとめ:脂質異常症は「未来のリスク」から治療を決める

脂質異常症の治療では、LDLコレステロールの数値だけを見るのでは不十分です。

次の要素を総合して判断します。

  • 年齢と性別
  • LDL・HDL・中性脂肪
  • 喫煙の有無
  • 血圧
  • 糖尿病の有無
  • 腎機能
  • 家族歴
  • すでに動脈硬化があるか
  • 今後10年・30年の心血管リスク

同じLDL150mg/dLでも、治療方針は全員同じではありません。

必要以上に怖がる必要はありませんが、「症状がないから大丈夫」と放置することもおすすめできません。

大切なのは、現在の数値だけでなく、将来のリスクを正しく把握し、自分に必要な対策を選ぶことです。

健康診断でLDLコレステロールを指摘された方へ

検査結果だけでなく、年齢、喫煙、糖尿病、血圧などを含めて、今後のリスクと治療方針を一緒に確認します。

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参考文献

※1 American College of Cardiology / American Heart Association. 2026 Guideline on the Management of Dyslipidemia.

※2 American Heart Association. PREVENT: Predicting Risk of Cardiovascular Disease EVENTs Equations.

※3 日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.

※4 American College of Cardiology. Lower Sooner: How the 2026 Dyslipidemia Guideline Changes Practice.

※5 日本循環器学会.2023年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン.

本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。実際の治療方針は、年齢、既往歴、検査値、使用中の薬剤などによって異なります。

この記事の監修者
細田 俊樹
  • 医療法人社団緑晴会 あまが台ファミリークリニック 理事長
  • 日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医
  • 日本糖尿病学会正会員、日本睡眠学会所属、日本肥満学会所属

年間15,000人以上の患者さんを診察している総合診療専門医。
総合診療という専門分野を生かし、内科、皮膚科、小児科、生活習慣病まで様々な病気や疾患に対応している。
YouTubeでよくある病気や患者さんの疑問に対して解説している