
糖尿病の治療中に風邪をひき、熱が出たり、下痢や嘔吐で食事がとれなくなったりしたとき、
「食べていないのだから、糖尿病の薬は飲まない方がいいのでは?」
「インスリンを打ったら低血糖になりそうで怖い」
「水分だけで、いつまで自宅で様子を見てよいのだろう」
このように悩んでいませんか?
糖尿病の患者さんが、感染症や体調不良によって普段どおりに食事や水分をとれなくなった状態を、医療用語で「シックデイ」といいます。
シックデイでは、食事量が減っていても血糖値が大きく上がることがあります。その一方で、糖尿病の薬やインスリンの影響によって低血糖になることもあります。
つまり、単純に「食べられないから薬を全部やめる」「血糖値が高いから普段どおり飲み続ける」と考えるのは危険です。
この記事では、糖尿病の患者さんが体調を崩したときに知っておきたいシックデイルールを、できるだけ具体的に解説します。
特に、インスリン、メトホルミン、SGLT2阻害薬などを使用している方は、体調が悪くなる前に確認しておきましょう。
この記事を監修する医師
皆さん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田俊樹です。

私は医師として25年間、地域医療の現場で内科、糖尿病内科、小児科、皮膚科など幅広い症状を診療してきました。家庭医療専門医、日本糖尿病学会正会員として、年間約5,000人の糖尿病の患者さんを診察しています。
当院では、医師による治療だけでなく、国家資格を持つ管理栄養士5名が在籍し、食事療法や体調不良時の食事についても患者さんに合わせてサポートしています。
シックデイは、普段の血糖値が安定している患者さんにも起こります。いざというときに慌てないよう、正しい対応を一緒に確認していきましょう。
糖尿病のシックデイとは?
シックデイとは、糖尿病の患者さんが風邪、インフルエンザ、胃腸炎などにかかり、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などによって、普段どおりの食事や水分をとれなくなった状態です。※1
例えば、次のような状態がシックデイに該当します。
- 風邪やインフルエンザなどで発熱している
- 下痢や嘔吐が続いている
- 喉の痛みや吐き気で食事がとれない
- 食欲がなく、普段の半分以下しか食べられない
- 脱水気味で、尿量が減っている
- 強い感染症や痛みなどで血糖値が上がっている
「シックデイ」という名前から、単なる体調不良のように感じるかもしれません。

しかし、糖尿病の患者さんでは、体調不良をきっかけに著しい高血糖、脱水、低血糖、糖尿病性ケトアシドーシスなどを起こすことがあります。状態によっては、早急な入院治療が必要です。※1
食べていないのに、なぜ血糖値が上がるのですか?
患者さんから、よく次のように質問されます。
「何も食べていないのに、どうして血糖値が上がるのですか?」
確かに、食事量が減れば血糖値も下がるように思いますよね。
ところが、発熱や感染症などの強いストレスが体にかかると、カテコールアミンやコルチゾールなどのホルモンが分泌されます。
これらのホルモンには、インスリンの働きを弱め、肝臓からブドウ糖を放出させる作用があります。
そのため、ほとんど食べられていなくても血糖値が上がることがあります。※1

一方で、食事量が減っているにもかかわらず、インスリン分泌を増やす薬や食事に合わせたインスリンを通常どおり使用すると、低血糖を起こす可能性があります。
シックデイでは、高血糖と低血糖の両方に注意が必要なのです。

シックデイで最初に行う5つの対応
1.まずは安静にして体を休める
発熱や感染症があるときは、無理に仕事や運動を続けず、安静と保温を心がけてください。
血糖値が高いときやケトン体が出ているときに激しい運動をすると、かえって血糖値やケトーシスが悪化する可能性があります。
2.水分を少量ずつ、こまめにとる
発熱、下痢、嘔吐、高血糖があると、体から水分が失われやすくなります。
一度に大量に飲むと吐き気が強くなることがあるため、少量ずつ、回数を分けて補給してください。
飲める場合は、次のようなものが候補になります。
- 水
- お茶
- スープやみそ汁
- 経口補水液
ただし、心不全や腎機能障害などで水分制限を指示されている方は、一般的な水分量をそのまま当てはめることはできません。主治医の指示に従ってください。
嘔吐が続き、水分を飲んでもすぐに吐いてしまう場合は、自宅での対応にこだわらず医療機関へ相談しましょう。

3.食べられる形で糖質とエネルギーを補給する
普段どおりの食事が難しいときは、無理に固形物を食べる必要はありません。
おかゆ、うどん、やわらかく煮た麺類、スープなど、消化しやすく口にしやすい食品から少量ずつ摂取します。※1
- おかゆ
- やわらかいうどん
- スープ
- ゼリー飲料
- バナナやすりおろした果物
- 食べやすく調整した通常食
「糖尿病だから、体調が悪くても糖質はとらない方がよい」と考える方がいます。
そのお気持ちは理解できますが、食事がほとんどとれない状態では、低血糖やエネルギー不足を避けるために、一定量の糖質が必要になることがあります。
どの程度とればよいかは、血糖値、薬の種類、インスリン量、食事量によって異なります。
4.血糖値を普段よりこまめに確認する
自己血糖測定器や持続血糖測定器を使用している方は、普段よりもこまめに血糖値を確認してください。※1

特に確認したいのは、次のような場合です。
- 食事が十分にとれない
- 発熱がある
- 嘔吐や下痢がある
- 冷や汗、手の震え、動悸などの低血糖症状がある
- 強い口渇や頻尿などの高血糖症状がある
- インスリン量を調整する必要がある
CGMを使用している場合でも、症状と測定値が一致しないときや急激に血糖値が変化しているときは、必要に応じて指先からの血糖測定で確認します。
5.体温、症状、食事量、血糖値を記録する
医療機関へ相談するときには、次の情報があると、より具体的な指示を受けやすくなります。
- いつから体調が悪いか
- 発熱、咳、下痢、嘔吐などの症状
- 水分がどの程度とれているか
- 食事が普段の何割程度とれているか
- 現在の血糖値と血糖値の推移
- 使用している糖尿病薬やインスリンの名称
- 最後に薬を飲んだ時刻、インスリンを打った時刻
- 尿量が減っていないか
- ケトン体を測定した場合はその結果
糖尿病治療中の体調不良を、一人で判断していませんか?
食事がとれない、薬をどうすればよいかわからない、血糖値がいつもと違う場合は、早めに医療機関へご相談ください。
シックデイのとき、糖尿病の薬はどうすればよいですか?
シックデイで最も判断が難しいのが、糖尿病薬やインスリンの扱いです。
結論からお伝えすると、薬をすべて自己判断で中止するのも、普段どおり一律に続けるのも危険です。
薬の種類、食事量、脱水の程度、腎機能、血糖値によって対応が異なるため、原則としてかかりつけ医へ連絡してください。
インスリンを使用している方

インスリンを使用している方、特に1型糖尿病の方は、食事がとれなくてもインスリンを自己判断で完全に中止しないでください。※1、※2
体調不良時には、食事をしていなくてもストレスホルモンによって血糖値が上がり、インスリンが不足すると糖尿病性ケトアシドーシスを起こす危険があります。
原則として、持効型インスリンや基礎インスリンは継続が必要です。ただし、投与量を調整する場合があるため、主治医から事前に指示を受けておくことが大切です。
食事に合わせて使用する超速効型・速効型インスリンについては、食事量、血糖値、ケトン体の結果などに応じた調整が必要です。
「食べられないから全部打たない」「血糖値が高いから自分の判断で大幅に増量する」といった対応は避けてください。
メトホルミンなどのビグアナイド薬
メトホルミンなどのビグアナイド薬は、発熱、下痢、嘔吐、食事摂取不良などで脱水が疑われるシックデイでは、原則として一時中止を検討します。※1
脱水や腎機能低下がある状態で服用を続けると、まれですが乳酸アシドーシスという重篤な状態につながる可能性があるためです。
ただし、どの状態から中止するか、いつ再開するかは個別に判断します。症状が改善したからといって、自己判断ですぐに再開せず、主治医へ確認してください。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、尿中へブドウ糖を排泄することで血糖値を下げる薬です。
発熱、下痢、嘔吐、食事摂取不良などのシックデイでは、脱水やケトアシドーシスの危険が高まるため、原則として一時中止が必要です。※1
SGLT2阻害薬を使用している方では、血糖値がそれほど高くなくてもケトアシドーシスを起こす「正常血糖ケトアシドーシス」が生じることがあります。
次のような症状がある場合は、血糖値だけで安心せず、速やかに医療機関へ相談してください。
- 強い吐き気や嘔吐
- 腹痛
- 強い倦怠感
- 息苦しさ、呼吸が速い
- 意識がぼんやりする
- 水分や食事がとれない
SU薬・グリニド薬
SU薬やグリニド薬は、膵臓からのインスリン分泌を促す薬です。
食事量が少ない状態で通常どおり服用すると、低血糖を起こすことがあります。そのため、食事摂取量によって減量または中止を検討します。※1
服用している薬がSU薬やグリニド薬に該当するかわからない場合は、お薬手帳を確認し、医療機関または薬局へ相談してください。
αグルコシダーゼ阻害薬
αグルコシダーゼ阻害薬は、食後の糖質吸収を遅らせる薬です。
食事がとれない場合や、下痢・嘔吐などの消化器症状が強い場合は、原則として中止を検討します。※1
GLP-1受容体作動薬などの注射薬
GLP-1受容体作動薬は、薬の種類や使用頻度が異なります。
吐き気や嘔吐が強い場合、脱水がある場合、ほとんど食事がとれない場合は、次回投与をどうするか主治医へ確認してください。
週1回製剤の場合、すでに投与した薬の作用が数日間続くこともあります。体調不良時に追加で投与したり、自己判断で投与間隔を変更したりしないでください。
重要な注意点
ここで紹介した薬剤別の対応は一般的な考え方です。
患者さんの状態、腎機能、血糖値、食事量、併用薬によって対応は異なります。
実際の中止・減量・継続・再開については、必ず処方した医師へ確認してください。
すぐに医療機関へ連絡・受診した方がよい症状
「どの程度まで自宅で様子を見てよいのでしょうか?」という質問もよく受けます。
軽い風邪症状で、水分と食事がある程度とれ、血糖値も大きく乱れていなければ、自宅で安静にしながら経過を見られる場合があります。
しかし、次のような場合は早めに医療機関へ連絡または受診してください。※1、※2
- 嘔吐や下痢が続いている
- 38度以上の高熱が続いている
- 水分を飲んでも吐いてしまう
- 24時間にわたり、食事がまったくとれない、または極端に少ない
- 血糖値350mg/dL以上が続いている
- 血中ケトン体が高値、または尿ケトン体が強陽性である
- 強い口渇があり、尿量が極端に多い、または逆に尿が出ない
- 強い倦怠感、腹痛、呼吸が速いなどの症状がある
- 低血糖を繰り返している
- 低血糖になっても自分で糖分を摂取できない
- 反応が鈍い、会話がかみ合わないなど意識状態に変化がある
特に、意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い、けいれんしている、自力で水分をとれない場合は、通常の外来受診ではなく救急要請を検討してください。

特に早めの相談が必要な方
次のような方は、シックデイが重症化しやすい、または薬の調整が複雑になりやすいため、早めに医療機関へ相談してください。
- 1型糖尿病の方
- インスリンポンプを使用している方
- SGLT2阻害薬を服用している方
- インスリンを使用している方
- 高齢で一人暮らしの方
- 腎機能障害、心不全、肝疾患がある方
- 妊娠中の方
- 普段から血糖値が不安定な方
- 低血糖に気づきにくい方
- 認知機能の低下などにより、薬の自己管理が難しい方
シックデイになる前に準備しておきたいもの
体調を崩してから薬の名前や連絡先を探すのは大変です。
普段から次のものをまとめておきましょう。
- お薬手帳
- かかりつけ医の連絡先
- 自己血糖測定器、センサー、測定用物品
- 必要に応じて血中または尿中ケトン体の測定用品
- ブドウ糖や低血糖時に摂取できる食品
- 水や経口補水液
- おかゆ、うどん、スープ、ゼリーなどの食べやすい食品
- 体温計
- 普段のインスリン量や薬の一覧
- 体調不良時の薬の調整について書かれた主治医からの指示
ご家族にも、どこに保管しているかを伝えておくと安心です。
よくある質問

食事がとれない場合は、糖尿病の薬を全部中止してよいですか?
いいえ。薬の種類によって対応が異なります。
メトホルミンやSGLT2阻害薬などは一時中止を検討する一方、インスリン、特に基礎インスリンは自己判断で完全に中止すると危険な場合があります。
服用中の薬を確認し、できるだけ早くかかりつけ医へ相談してください。
食べていないので、インスリンも打たなくてよいですか?
基礎インスリンまで自己判断で中止するのは危険です。
特に1型糖尿病の方では、インスリンを中断すると短時間でケトアシドーシスに進む可能性があります。食事に合わせる追加インスリンは調整が必要ですが、必ず血糖値を確認し、主治医の指示に従ってください。
スポーツドリンクを飲んでもよいですか?
食事がとれず糖質補給が必要な場合には、糖分を含む飲料が役立つことがあります。
一方で、血糖値が非常に高い状態で甘い飲料を大量に飲むと、さらに血糖値が上昇する可能性があります。
水分補給には水、お茶、スープ、経口補水液などを状況に応じて使い分け、血糖値と食事量を確認してください。
症状が治ったら、薬をすぐ再開してよいですか?
水分と食事が普段どおりにとれるようになり、脱水や発熱が改善していることを確認してから再開を検討します。
特にメトホルミンやSGLT2阻害薬は、腎機能や脱水の回復を確認した方がよい場合があります。再開時期は主治医へ確認してください。
まとめ:シックデイでは、薬を自己判断せず早めに相談しましょう
糖尿病の患者さんが発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などで普段どおりに食事や水分をとれない状態を、シックデイといいます。
シックデイでは、食事をしていなくても血糖値が上がることがあります。一方で、薬やインスリンの影響によって低血糖になることもあります。
大切なのは、次の5点です。
- 安静にして、体を休める
- 水分を少量ずつ、こまめにとる
- 食べられる形で糖質とエネルギーを補給する
- 血糖値を普段よりこまめに確認する
- 薬を自己判断で一律に中止・継続せず、医療機関へ相談する
特に、インスリンを使用している方、SGLT2阻害薬やメトホルミンを服用している方は、体調が悪くなる前に主治医とシックデイ時の対応を決めておきましょう。
「この程度で相談してもよいのだろうか」と遠慮する必要はありません。
食事や水分がとれない、薬の扱いがわからない、血糖値がいつもと違う場合は、重症化する前に早めにご相談ください。
糖尿病の治療を、体調や生活に合わせて見直しませんか?
あまが台ファミリークリニックでは、家庭医療専門医・日本糖尿病学会正会員の医師と、国家資格を持つ管理栄養士が連携し、一人ひとりの生活、食事、使用している薬に合わせた糖尿病治療を行っています。
千葉県長生郡長生村。茂原市、大網白里市、東金市、千葉市方面からもご相談いただいています。
参考文献
- 日本糖尿病学会編著.糖尿病診療ガイドライン2024.第20章「糖尿病における急性代謝失調・シックデイ」.南江堂,2024.
- 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター.「シックデイ」.2025年10月23日更新.
- 日本糖尿病学会.「1型糖尿病はどのように治療するのか?」一般向け糖尿病情報.
本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の患者さんに対する診断や処方変更の指示ではありません。薬の中止、減量、再開、インスリン量の調整については、必ず処方を受けている医療機関へご相談ください。


