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危険な腹痛の見分け方5選
本日のテーマは、危険な腹痛の見分け方5選。このブログを見ている方の中で、
- お腹の痛みの原因は何だろう…
- 痛くて辛いけど、救急車を呼んでいいのかわからない
こういったことで悩まれた方はいらっしゃいませんか?
今回は、

こういう時は病院に行った方がいい

危険な腹痛かもしれない
そういった危険な腹痛の見分け方を5つ紹介します。
このブログを見ることで、ご自身やご家族、大切な方がお腹が痛いと言った時に、病院にすぐ行った方がいいかもしれないとアンテナが立つかもしれません。ぜひ最後までご覧ください。
腹痛の原因に多い急性胃腸炎に隠れている怖い病気とその見分け方
まずは急性胃腸炎から説明します。

お腹の風邪ですか?胃腸炎ですかね
と外来でおっしゃってくる方も少なくないほど、よく知られた病気です。
急性胃腸炎の典型的な症状
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛
- 発熱
このブログを書いているのが2月中旬ですが、この寒い時期である冬から春にかけては、ノロウイルスやロタウイルスといった感染性の強い胃腸炎が流行します。
吐き気・腹痛・下痢を訴える患者さんを診察する時に、若い先生・研修医などが間違いやすい落とし穴があります。それは何だと思いますか。
私たち医者は様々な質問をしますが、

下痢はありますか?
と言った時に、本当の下痢でない方がいます。

えっそれどういう意味ですか?
患者さんは普段より少し柔らかい便でも、あるいは1日1回の方が2回出ただけでも下痢と言ってしまったりします。
下痢の定義はご存知でしょうか。ここを間違えると重大な病気を見逃してしまうことにもなりかねません。
下痢の定義
- 便が普段よりもドロ状
- シャアシャアという水状
- ウンチが1日5回とか6回とか普段よりもかなり増えている状態
ですから単純に「下痢はありますか?」と聞くだけではなく、
- 具体的に大便をする回数
- その便の具体的な状態
についても聞いておくということが大事です。
実際の症例
先日もこんな患者さんがいらっしゃいました。
- 50歳ぐらいの男性
- ご自身では胃腸炎かもしれないと解釈
- 発熱と右側の腹痛、肋骨の下辺りに強い痛みがある
具体的に排便の状況をお伺いしたところ、昨日と今日、いつもより少し緩い便が2回あり、量はそれほど多くなかったとのことです。
この患者さんは下痢という訴えでしたが、実際には下痢ではありませんでした。
ですから血液検査を行うと、炎症反応が高く、超音波検査では胆嚢が大きく腫れていました。結果的には胆嚢炎の診断となりました。
急性胃腸炎のイメージ
急性胃腸炎についてお聞きした時に、皆さんはどんなイメージを持つでしょうか。
ほとんどの急性胃腸炎は急性ウイルス性胃腸炎で、ノロウイルスやロタウイルスといったウイルスが悪さをする胃腸炎です。
水のような下痢がシャーシャー出て、吐き気や下痢を伴うことが多いです。
一方で急性胃腸炎には急性細菌性胃腸炎も存在します。
ウイルスと細菌の違い
- ウイルスは顕微鏡でも見えないほど小さい
- 細菌は顕微鏡でも見える大きさ
例えば、腸炎ビブリオは生牡蠣を食べた時にあたったことがある方に多い原因菌です。
また、生の鶏肉や鳥の刺身を食べた後に感染することがあるカンピロバクターなどもあります。その他にサルモネラや病原性大腸菌なども存在します。
こういった病気は放っておくと命に関わる場合があります。
細菌性の腸炎を疑うには?
では、どんな時に細菌性の腸炎を疑うべきでしょうか。
細菌性胃腸炎の場合は…
- お腹の痛みがかなり強いことが多く、顔をしかめるほど痛がっている方が多い
- 熱は38度以上と高め
- 血便が出る
- スライムのようにネチョッとした便が見られることがある
医者はこれを粘液便と言い、「しぶり腹」と呼ぶこともあります。
しぶり腹
しぶり腹とは、直腸というところに細菌が感染すると炎症が強く起きるために、トイレに行っても便は出ないのに何度もトイレへ行きたくなる状態を指します。
しぶり腹は怖い病気が隠れている症状の1つです。
医者にとっては、この2つ(急性ウイルス性胃腸炎、細菌性胃腸炎)を区別することがとても重要なポイントです。
危険な腹痛の見分け方5選
突然起こる腹痛
危険な腹痛の症状①は、突然起こる腹痛です。

雷がバーンと落ちたような痛みで、突然痛くなった
と訴える患者さんでも、詳しく聞くと実は徐々に痛くなってきたというパターンは全然珍しくありません。
ここで言う「突然起きる」というのは、例えば
- 18時ちょうどに痛くなった
- 大相撲の千秋楽で白鳳が優勝した瞬間に痛くなった
というように、痛くなり始めた時を明確に覚えていることです。
実際の症例
私がクリニックで救急当番をしていた時、60歳代の患者さんが来られました。
この方は
- 肥満
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- タバコ
と、様々な生活習慣病を抱えていましたが、病院にはほとんどかかっておらず、お薬も飲んでいない状況でした。
胸の痛みや背中の痛みを訴え、歩いて来院されました。
痛みが起きた瞬間を伺ったところ、朝歯を磨いていたら突然顎が痛くなったと話されました。
大動脈解離とは、心臓から全身に血液を送る体の中で最も太い血管が裂けてしまう病気で、命を落としてしまう可能性が高いです。
この症状を例えるなら、水道のホースの内側が裂けてしまい、裂けた隙間にどんどん水が流れていく状態です。
そうなると、どんな事態になるかというと、本来流れるべきところ以外に血液がどんどん流れることになります。その結果、血管が乱れ、本来流れるはずの内臓に血液が行かなくなる危険な状態が生じます。
大動脈解離は表現を変えると血管が破れたとも言えます。
突然の痛みの原因3種
この突然の痛みというのは、これから述べる3つのどれかに当てはまります。
突然の痛みの原因として考えられるのは、以下の3つです。
- 何かが急に詰まった
- 何かが破れてしまった
- 何かがねじれてしまった
どれも非常に痛そうな状況ですよね。大動脈解離はまさに「破れた」状態です。
では、どこかで急に詰まったりする病気とはどのようなものでしょうか。
例えば、
- 尿管結石
- 胆石
- 心筋梗塞
などがあります。
これらの中で詰まってしまう病気はどれかと考えると、実はすべて該当します。
心筋梗塞が腹痛の原因に入るのかと驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、心筋梗塞の中にはみぞおちのあたりが痛いと訴えて来院される方も稀にいます。
心臓の筋肉の中でも、下の方の筋肉が壊死することでみぞおちが痛むことがあるのです。
実際の症例
私が初めて独り立ちして救急外来を担当した初日に、80歳以上の男性が来院されました。この方は普段は寝たきりに近い状態でしたが、

お腹が痛い
と訴えました。
胃が痛いのだろうと思ってお腹を押しても、痛がる様子は見られませんでした。
しかし、この患者さんの痛みがずっと続くため、

何かおかしい
と思い入院を決定しました。
その後、循環器内科の先生とともにストレッチャー(動くベッド)で病棟に運んでいた時、エレベーターの中で急に意識状態が悪くなったのです。
この出来事は今でも忘れられません。
普段寝たきりで、あまりお話をされない方でしたので、突然起きたかどうかが分からなかったというのも診断が遅れた一因でした。
突然の痛みの原因の③の「何かがねじれてしまったケース」についてお話します。
- 何かが急に詰まった
- 何かが破れてしまった
- 何かがねじれてしまった
突然の痛みの原因として、何かがねじれてしまう病気にはどんなものがあるかを考えると、イメージしづらいかもしれません。
女性は2つの卵巣があります。
もし、1つの卵巣に腫瘍ができて大きくなった場合、その卵巣がねじれることになります。この状態を卵巣腫瘍の茎捻転と呼びますが、腫瘍が大きくなくてもねじれる場合があります。
卵巣がねじれた場合は、下腹の方にある瞬間から激痛を感じることが多いです。
歩くと響く
危険な腹痛の症状②についてお話しします。「歩くと響く」状態です。
- お腹が痛くて歩いていると響く
- 咳をするだけでお腹が痛い
そんな時は、腹膜炎を起こしている可能性が極めて高いですので、すぐに病院を受診することをおすすめします。
腹膜炎とは
腹膜炎とは何かご説明します。
こちらは私が描いた図で、これはお腹を横から見た図です。
左側が背中側で、右側がお腹側です。背骨が並んでいます。
腹膜というのは、太い赤で囲んだ部分です。肝臓や小腸や大腸といった臓器を守るための袋です。そこに炎症が起こるのが腹膜炎です。
なぜ腹膜に炎症が起こるのかというと、原因はたくさんあります。
盲腸のことを医者は虫垂炎と呼びますが、虫垂が破裂しても同様に腹膜炎が起きます。
実際の症例
私が数ヶ月前に経験した腹膜炎の方は30歳代の女性でした。
かかりつけの産婦人科の先生から妊娠5週と診断された後、2日後の18時に突然下腹が痛くなりました。来院されるまでの数日、茶色いおりものが続いていました。
もちろん、子宮外妊娠を疑って様々な診察をしました。
腹膜炎がどうかを診るために、一旦立ち上がっていただき、かかとを上げてパタンと落としてもらう「かかと落とし試験」を行いました。
腹膜炎を放置すると、臓器が機能しなくなり、胃・小腸・大腸などが動かなくなる場合があります。その結果、ガスや便が出なくなり、お腹がパンパンに膨らんで苦しくなります。
さらに、ばい菌が血液に入り込み全身に広がると、高熱や意識朦朧、血圧が低下し、いわゆるショック状態に陥ることがあります。
こういった状態が続くと、全身の臓器が働かなくなるため、最悪の場合、死に至ることもあります。
痛みがどんどん悪化してくる場合
危険な普通の症状③についてお話しします。
痛みがどんどん悪化してくる場合、これはお腹の中の炎症が進行している可能性を示しています。
炎症を火に例えると、最初はちょっとした痛みで気にならないこともありますが、様子を見てしまうことが多いです。
例えば、腸閉塞という、腸に腫瘍や便が溜まって動かなくなってしまう場合も、最初はお腹が少し張る程度で始まることが珍しくありません。しかし、小さく煙だったものが火がつくと、痛みがどんどん強くなります。
放置すると火事が広がり、手に負えなくなることがあります。この状態は激痛であり、最も危険な状況です。
血便
次に危険な腹痛の症状④をご紹介します。
血便とは、便に血が混じっている状態を指します。痔なども血便のように見えることがありますが、本当に危険な腹痛の場合、便器が真っ黒あるいは真っ赤になることがあります。また、何度も血便が繰り返す傾向もあります。
実は、もしも胃潰瘍で出血した場合、胃から肛門までの距離がとても長いため、赤血球が酸化されて黒くなり、黒い便が出現します。
一方で、大腸や肛門に近い場所で出血する場合、色が真っ赤になります。あまりにも多くの血便が続くと、めまいや意識がぼんやりしてきたり、冷や汗や顔色が悪くなることがあります。
実際の症例
私は担当した患者さんが、朝方トイレに行った際に目の前が真っ暗になり、倒れてしまっていたところを娘さんに発見され、病院に搬送されました。
外来で血液検査を行ったところ、ヘモグロビンが7とかなり低い値であることが分かりました。ヘモグロビンは赤血球の中に含まれるタンパク質と鉄の複合体で、酸素を運ぶ役割を果たしています。
正常では12以上ですが、7というのはかなり低下している状態です。
この患者さんは大腸カメラの検査を受け、最終的に大腸がんと診断されました。
胃潰瘍や大腸がんなどで血便が続くと、酸素を運ぶヘモグロビンが減少し、頭に酸素や血液が行かずに目の前が暗くなって倒れてしまうこともあります。
血便が続くと、意識が朦朧としたり、冷や汗や顔面が真っ青になったり、血圧が低下することがあります。
移動する痛み
危険な腹痛の症状⑤は移動する痛みです。

痛みが移動する?
と思われるかもしれませんが、実際に移動することがあります。
腹痛の原因には様々な病気が考えられますが、ここでは虫垂炎を例に挙げます。
虫垂炎とは
虫垂炎は一般的には盲腸と呼ばれ、誰もが聞いたことのある名前です。
日本では毎年約10万人が虫垂炎を発症、発症しやすい年齢が10歳~19歳です。原因はあまりよく分かっていませんが、放置しておくと全身にばい菌が回って命の危険にもさらされることがあります。
ここでは典型的な症状の経過から虫垂炎について説明します。
虫垂炎の場合、最初にみぞおちのあたり、つまり胸の辺りからお腹の方に痛みが広がっていく場合があります。
おへその周りが痛いという方も多く、これが最初の違和感や痛みとして現れます。
その後、吐き気や、ひどいと嘔吐が伴うこともあります。
虫垂炎(盲腸) … 腹痛 → 吐き気
急性胃腸炎は吐き気や嘔吐の後、場合によっては腹痛が続くことがありますが、虫垂炎のような危険な病気は逆に劇痛から始まることが多いのです。
虫垂炎の痛みが移動する特徴として、お腹の痛みがまずみぞおちやおへそに感じられ、その後右下腹部に移動することが多いです。
発症のピークは10歳から19歳ですが、小さなお子さんから高齢者まで虫垂炎を発症する可能性があります。おへそのあたりやみぞおちの違和感から始まり、その後10時間から20時間ほどして右下腹部に鋭い痛みが出てくることが多いです。
まとめ
ここまでいかがでしたでしょうか?皆さんがよく経験する急性胃腸炎ですが、実は急性胃腸炎には隠れている怖い病気があることをお伝えしました。
いわゆるお腹の風邪とされる症状の中にも、胆嚢炎をはじめとした危険な病気が隠れていることがあります。
また、急性胃腸炎はほとんどがウイルス性腸炎ですが、急性細菌性胃腸炎といってばい菌が血液の中に入って重症化する病気も存在します。
このブログでは、危険な腹痛の症状として以下のポイントをお話ししました。
- 突然始まる腹痛
- 歩くと響く痛み
- 痛みがどんどん増す
- 血便
- 移動する痛み
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
動画
「【放置厳禁!】危険な 腹痛 の見分け方 5選!【医師解説】」について、動画でも詳しく説明しています。ぜひご覧ください!