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その咳、風邪じゃないかも?喘息のサイン・診断・最新治療法を医師が徹底解説
そんな症状に心当たりはありませんか?

ただの風邪が長引いているだけ

体質だから仕方ない
と諦めてしまうその症状、もしかしたら「気管支喘息(ぜんそく)」のサインかもしれません。
喘息は、正しい知識を持って適切に治療すれば、発作を予防し、健康な人と変わらない日常生活を送ることができる病気です。
しかし、放置したり自己判断で治療を中断したりすると、重篤な事態を招くこともあります。
この記事では、家庭医療専門医の私が
- 喘息を疑うべき症状のチェックリスト
- 喘息を放置する本当のリスク
- クリニックで行う正確な診断方法
- 発作を予防する治療薬と、発作が起きた時の対処法
- 日常生活で気をつけるべきポイント
について、どこよりも分かりやすく解説します。
この記事を読めば、喘息への不安が解消され、前向きに治療に取り組むための一歩を踏み出せるはずです。
はじめに:この記事を書いている医師について
みなさん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です。
私たちは「総合診療(プライマリ・ケア)」といって、内科や小児科など分野を問わず、体や心のどんな悩みにも最初に対応する地域の頼れるお医者さんを目指しています。
その中でも、風邪やアレルギー、そして今回のテーマである「喘息」は非常に多い病気です。
実は、皆さんが「病院に行こう」と思う理由の中で、「咳(せき)」は最も多い症状の一つなんです。
そして、その長引く咳の原因として非常に多いのが「気管支喘息」です。
だからこそ、私たちはこの病気について、たくさんの患者さんを診てきた経験をもとに、できるだけ分かりやすく、そして正確な情報をお伝えしたいと思っています。
1. あなたは当てはまる?喘息を疑うべきサイン
喘息の症状は人それぞれですが、以下のようなサインが一つでも当てはまる場合は、一度専門医への相談をおすすめします。
□ 季節の変わり目(特に春や秋)になると咳や痰が増える
□ 運動中や運動後に、咳き込んだり息切れがしたりする
□ 風邪をひくと、いつも咳だけが2週間以上長引く
□ 息を吐くときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする(喘鳴:ぜんめい)
□ ホコリっぽい場所やタバコの煙、冷たい空気を吸うと咳が出やすい
□ 特定のアレルギー(花粉、ハウスダストなど)がある
これらの症状は、空気の通り道である「気道」が、慢性的な炎症を起こしているサインかもしれません。
2. 「ただの咳」と放置する本当のリスク
喘息の最も怖い点は、治療せずに放置すると、気道の炎症が常態化し、気道の壁自体が厚く硬くなってしまう「気道リモデリング」という状態に陥ることです。
一度リモデリングが起きてしまうと、気道は元のように広がらなくなり、治療の効果も出にくくなってしまいます。
「たまに出る咳だから」と軽視していると、
・常に息苦しさを感じるようになり、少し動くだけで疲れてしまう
・突然、呼吸が極めて困難になる「大発作」を起こし、命に関わる事態に陥る
といった深刻な状況に進んでしまう可能性があります。
事実、日本国内では今でも年間約1,000人以上の方が喘息で命を落としています。
しかし、その多くは適切な治療によって防げたかもしれないのです。

喘息は、決して「甘く見てはいけない病気」であることを、まず知っておくことが重要です。
3. 喘息の診断方法 ー クリニックでは何をするの?
当院では、患者さんの症状を正確に把握するため、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
- 問診: どのような時に、どんな症状が出るのかを詳しくお伺いします。これが最も重要な情報源です。
- 聴診: 聴診器を胸にあて、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘息に特徴的な呼吸音がないかを確認します。
- 呼吸機能検査(スパイロメトリー): 力いっぱい息を吸ったり吐いたりして、肺活量や息の吐き出す勢いを測定します。気道が狭くなっていないかを客観的な数値で評価できます。
- 呼気NO(一酸化窒素)検査: 吐いた息の中に含まれる一酸化窒素の濃度を測定します。気道にアレルギー性の炎症があるとこの数値が高くなるため、喘息の診断や治療効果の判定に非常に役立ちます。
これらの検査により、「本当に喘息なのか」「どのくらい重症なのか」を正確に判断し、一人ひとりに合った治療方針を立てていきます。
4. 喘息治療のゴールと2種類の治療薬
喘息治療のゴールは、「発作が起きない状態を維持し、健康な人と変わらない生活を送ること」です。そのために、主に2種類の吸入薬(吸い込むタイプの薬)を使い分けます。
① 長期管理薬(コントローラー)
- 役割: 気道の炎症を根本から抑え、発作そのものを予防する薬です。喘息治療の主役であり、最も重要な薬です。
- 代表的な薬: 吸入ステロイド薬(ICS)+長時間作用型気管支拡張薬(LABA)
- 使い方: 症状がない時でも、医師の指示通りに毎日欠かさず使用します。これを続けることで、気道が安定し、発作が起きにくい状態を維持できます。
② 発作治療薬(リリーバー)
- 役割: 発作が起きて苦しくなった時に、一時的に気道を広げて症状を和らげる薬です。いわば「お守り」のような薬です。
- 代表的な薬: 短時間作用性β2刺激薬(SABA)、ステロイド剤の内服治療
- 使い方: 症状が出た時だけ、頓服(とんぷく)として使用します。
- 注意点: この薬の使用回数が多いということは、コントローラーによる炎症のコントロールが不十分であるサインです。リリーバーの使用が増えてきたら、すぐに主治医に相談してください。
5. 薬だけじゃない!日常生活で気をつけるべきこと
喘息を上手にコントロールするためには、薬物療法と合わせて、日常生活でのセルフケアが欠かせません。
- アレルゲンを避ける: ハウスダスト、ダニ、ペットの毛、花粉など、ご自身のアレルギーの原因となるものを、こまめな掃除や寝具の洗濯などで生活環境から遠ざけましょう。
- 禁煙と受動喫煙の回避: タバコの煙は気道への最大の刺激物です。ご自身の禁煙はもちろん、ご家族にも協力してもらい、受動喫煙を避けましょう。
- 体調管理: 風邪やインフルエンザは喘息発作の大きな引き金になります。手洗い・うがいを徹底し、感染症を予防しましょう。
- ストレス管理と十分な休養: 過労やストレスも喘息を悪化させます。自分なりのリラックス方法を見つけ、十分な睡眠を心がけましょう。
- 喘息日記をつける: 毎日の症状や、発作治療薬を使った回数などを記録しておくと、ご自身の状態を客観的に把握でき、医師が治療方針を決定する上で非常に重要な情報となります。
まとめ:正しい治療で、喘息はコントロールできます
喘息は、正しく向き合えば決して怖い病気ではありません。
・長引く咳や息苦しさは、放置せずに専門医に相談する
・コントローラー(長期管理薬)を毎日続け、発作を予防する
・発作が起きた時だけリリーバー(発作治療薬)を使い、使用頻度が増えたら主治医に伝える
・日常生活でも悪化要因を避ける努力をする
このサイクルを、私たち専門医と患者さんがパートナーとして一緒に行うことで、発作のない穏やかな毎日を取り戻すことができます。
「このくらいの症状なら…」と一人で悩まず、ぜひ一度、当院にご相談ください。
私たちは、あなたの呼吸を、そしてあなたらしい毎日を全力でサポートします。