足がつる=水不足は大間違い?
「足がつるなら、もっと水を飲みなさい」
「バナナを食べるといいらしいよ」
もし、あなたがこの言葉を信じて、毎晩ガブガブ水を飲んでいるとしたら、残念ながらそれは「間違い」である可能性があります。
それどころか、その夜中の足のつり、実は「脳梗塞」や「心筋梗塞」の一歩手前のサインかもしれないのです。

こんにちは。千葉県茂原長生郡にある「あまが台ファミリークリニック」院長の細田俊樹です。
当院には、茂原市だけでなく、長生郡、大網白里市、千葉市などからも多くの患者様にご来院いただいております。
今回は、多くの中高年の方を悩ませる「夜中の足のつり(こむら返り)」について、家庭医療専門医の視点から解説します。
よく「年のせいだから仕方ない」と諦めている方がいますが、それは大きな誤解です。
足のつりは、体からの重要な「SOSサイン」です。今回のブログでは
- なぜ夜中に足がつるのか?(意外なメカニズム)
- 危険な足を見分ける30秒セルフチェック
- 見逃してはいけない4つの病気
- 今日からできる「医学的に正しい」3つの対策
これらを徹底的に解説していきます。
目次
なぜ足がつるのか?筋肉の「アクセル」と「ブレーキ」
足のつりの正体、医学的には「有痛性筋痙攣(ゆうつうせい きんけいれん)」と言います。
簡単に言うと、筋肉がギューッと縮んだまま、ロックされてしまった状態です。
私たちの筋肉には、実は「2つの優秀なセンサー」がついています。これを「車」に例えると非常に分かりやすくなります。
筋肉を制御する2つのセンサー

1. 筋紡錘(きんぼうすい)=「アクセル」
筋肉の真ん中にあり、「筋肉が伸びすぎてるぞ!縮め!」と命令して、筋肉を収縮させます。
2. 腱紡錘(けんぼうすい)=「ブレーキ」
筋肉の端っこにあり、「縮みすぎてるぞ!緩めろ!」と命令して、筋肉をリラックスさせます。

若い頃はこの運転手が優秀なので、アクセルとブレーキをうまく使い分けてスムーズに走れています。
しかし、40代、50代を過ぎると、あることが原因で、この「ブレーキ(腱紡錘)」が故障しやすくなるのです。
ブレーキが効かなくなると、どうなるでしょうか?
そう、アクセルが踏みっぱなしの状態になります。「縮め!縮め!」という指令だけが暴走して、止められなくなる。
これが、あの夜中の激痛、「こむら返り」の正体です。

なぜブレーキが壊れるのか?
理由は大きく3つ重なっています。
- 筋肉量の減少:筋肉が減ると、センサーである筋肉の「張り」を調整するバランスが崩れやすくなります。
- 水分とミネラルの不足:ミネラルは筋肉の興奮を抑える『ブレーキ』のような役割です。不足するとブレーキが効かなくなり、筋肉が暴走してしまいます。
- 冷えと血行不良:特に明け方は気温が下がり、血流が悪くなるため、センサーが誤作動を起こしやすくなります。
【30秒セルフチェック】あなたの足は大丈夫?
「私の足のつりは、ただの老化なの? それとも危険な病気なの?」
そう不安に思う方のために、今すぐできる「あなたの足の危険度」を判定する3つのセルフチェックをご紹介します。
靴下を脱いで、ご自身の足を確認してみてください。
チェック①:すねの毛チェック
足の「すね」を見てください。すね毛が薄くなっていたり、皮膚がテカテカ光っていたりしませんか?
「年のせい」と思われがちですが、これは「足の血管が詰まって栄養が届いていない」典型的なサインかもしれません。

チェック②:足の脈拍チェック
足の甲(親指と人差指の骨の間あたり)を、手の人差し指と中指で軽く触れてみてください。
ドクンドクンという脈を感じますか?
もし「脈が触れない」「左右で強さが全然違う」という場合、血管が詰まっている可能性が高いです。

チェック③:ティッシュ感覚テスト
ティッシュペーパーを1枚用意して、足の裏を撫でてみてください。
もし「触っている感覚が鈍い」「一枚皮を被っているようだ」と感じたら、それは「神経障害」のサインです。
いかがでしたか?
もし当てはまる項目があった方は、次に紹介する病気の可能性を疑う必要があります。

チェック項目に当てはまり、「もしかして…」と不安になりませんでしたか?
自己判断で放置せず、まずは専門医のチェックを受けましょう。
その足のつり、この4つの病気のサインかも?
足のつりの背後に隠れているかもしれない、代表的な4つの病気を解説します。
① 糖尿病(神経障害)
私は日本糖尿病学会にも所属し、多くの糖尿病患者さんを診ていますが、血糖値が高い状態が続くと神経が傷んでしまいます(糖尿病性ニューロパチー)。
神経が傷つくと「ブレーキ」の信号が脳にうまく伝わらなくなります。ティッシュの感覚が鈍かった方は特に注意が必要です。
② 腰の病気(脊柱管狭窄症・ヘルニア)
腰の骨が変形したりヘルニアになったりして神経が圧迫されると、脳からの指令がうまく伝わらなくなります。「縮め!」という誤った指令が勝手に流れてしまい、足がつります。
歩いている時に足がしびれたり痛んだりする方は、整形外科的な問題を疑います。

③ 閉塞性動脈硬化症(ASO)
これが一番怖いです。足の血管が動脈硬化で詰まっている状態です。
筋肉は血液から酸素をもらっていますが、血管が詰まると「酸欠状態」になり、痙攣を起こします。
もし、「歩くとふくらはぎが痛くなって、休むと治る」という症状があれば、足だけでなく、心臓や脳の血管も詰まっている可能性があります。
④ 腎臓病・肝臓病
腎臓や肝臓は、体の中のミネラル(電解質)のバランスを整える臓器です。
これらの機能が落ちると、ミネラルバランスが崩れ、筋肉のスイッチが勝手に入りやすくなります。
【こんな時は必ず病院へ!】
・毎晩のように足がつる
・足にしびれがある
・歩くと足が痛くなる
こうした症状がある場合は、「年のせい」で済ませずに、必ず一度医療機関を受診してください。
足のつりは、糖尿病や動脈硬化の初期サインかもしれません。
「あの時検査しておけばよかった」と後悔する前に、一度検査を受けて安心しませんか?
今日からできる!3つの「正しい対策」
病気が原因でない場合、生活習慣を変えるだけで劇的に良くなることも多いです。
私が患者さんにお勧めしている、効果的な対策を3つご紹介します。
(1) 筋肉を「貯金」する
一番の根本治療は、筋肉をつけることです。
「年だから筋肉はつかない」というのは間違いです。70代、80代の方でも、適切な運動をすれば筋肉は増えることが分かっています。
テレビを見ながらの「かかと上げ運動」(1日20回×3セット)や、椅子に座って行う「軽いスクワット」で、ふくらはぎのポンプ機能を復活させましょう。

(2) 寝る前の「儀式」を変える
寝る前の習慣を少し変えるだけで、予防効果が高まります。
・コップ1杯の水:飲みすぎないよう適量を。
・ふくらはぎストレッチ:アキレス腱を伸ばして、筋肉のセンサーをリセットしてから布団に入りましょう。
・保温:夏場でもレッグウォーマーをするなど、物理的に足を冷やさない工夫が大切です。
(3) 漢方薬とサプリメントという選択肢
どうしても辛い時、即効性があるのが漢方薬の「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」です。
これは筋肉の急激な収縮をスッと緩める効果があり、研究でもその効果が報告されています。
また、実は肝臓の機能が低下するとアミノ酸の一種である「タウリン」が不足し、筋肉が過敏になって足がつりやすくなることが医学的に分かっています [参考文献1]。
お酒をよく飲む方や肝臓の数値が気になる方で、もし足がつりやすいなら、市販のタウリンを含むサプリメントを試してみるのも一つの方法です。
ただし、足がつる症状は、肝臓からの『SOSサイン』である可能性もあります。
サプリで様子を見ても改善しない場合や、健康診断で肝数値を指摘されたことがある方は、一度当院で詳しい検査を受けてみませんか?隠れた病気の早期発見につながります。
※参考文献1:『肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版)』(日本消化器病学会・日本肝臓学会 編)

まとめ
実際、私のクリニックにも、毎晩足がつって不眠症になり、「もう手術しかない」と悩んで来院された70代の女性がいらっしゃいました。
検査をすると、実は隠れた糖尿病が見つかったんです。
そこで血糖値の治療と、今日お話ししたストレッチを組み合わせたところ、たった2週間で足のつりがピタリと止まりました。
「久しぶりに朝までぐっすり眠れました」というあの笑顔は、私にとっても本当に嬉しい瞬間でした。
原因が分かれば、対策は必ずあります。
今日お話ししたストレッチや運動、ぜひ今夜から試してみてください。
「自分の症状は心配だ」「一度詳しく調べてほしい」という方は、千葉市茂原市からも多数来院いただいています。
市原市や千葉市緑区方面からも、お車でアクセスしやすい場所にございます。
家庭医療専門医として、糖尿病や血流の検査などを含め、しっかり原因を突き止めます。
あなたの不安を解消し、ぐっすり眠れる毎日を取り戻すお手伝いができれば幸いです。
参考文献
- Allen RE, Kirby KA. Nocturnal leg cramps. Am Fam Physician. 2012 Aug 15;86(4):350-5.(米国家庭医療学会誌:夜間の足のつりに関する総説)
- 一般社団法人 日本糖尿病学会 編『糖尿病診療ガイドライン2024』(糖尿病性神経障害の診断と治療)
- 一般社団法人 日本消化器病学会・一般社団法人 日本肝臓学会 編『肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版)』(こむら返りとタウリン欠乏、芍薬甘草湯の推奨について)
- 一般社団法人 日本循環器学会『末梢閉塞性動脈疾患の診断・治療ガイドライン』(足の血流障害に関する診断基準)
- Garrison SR, et al. Magnesium for skeletal muscle cramps. Cochrane Database Syst Rev. 2020.(「マグネシウム摂取だけでは高齢者の足のつり改善には不十分である可能性」を示唆するシステマティックレビュー




