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【CPAPはいつかやめられる?】睡眠時無呼吸症候群が「治る」ことの本当の意味
皆さんこんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です。
当院では、年間1500人の睡眠時無呼吸症候群の患者さんを診療しています。
診察の中で、患者さんから最も多くいただく質問の一つが、
「やめたら、また元に戻ってしまうのですか?」
という質問です。
CPAP(シーパップ)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療に非常に効果的ですが、毎晩マスクをつけて寝ることに負担を感じる方も少なくありません。
いつかこの治療から解放されたい、と思うのは当然のことです。
今回は、この疑問に真正面からお答えします。

CPAP治療を中止するとどうなるのか、そして、どのような場合に「やめる」ことができるのか、医学的な根拠を交えて詳しく解説していきます。
結論:CPAPを自己判断でやめると、症状はすぐに元に戻る
まず結論から申し上げますと、CPAP治療を自己判断でやめると、治療によって抑えられていた無呼吸やいびきは、ほぼ確実に再発します。
CPAPは、寝ている間に持続的な空気の圧力を気道に送ることで、喉の閉塞を防ぎ、呼吸を助ける装置です。
これは、病気の根本原因を取り除く「根治療法」ではなく、症状を管理するための「対症療法」です。

よく患者さんには「メガネやコンタクトレンズと同じですよ」と説明しています。
視力が悪い人がメガネをかければよく見えますが、外せばまた見えにくくなるのと同じで、CPAPも使用している間だけ呼吸を正常に保ってくれるのです。
治療を中断すれば、激しいいびきや無呼吸が再発するだけでなく、日中の耐えがたい眠気や集中力の低下も再び現れます。
さらに深刻なのは、治療によってコントロールされていた高血圧や心臓病、脳卒中といった生命に関わる合併症のリスクが、再び高まってしまうことです。
ある研究では、CPAP治療をわずか2週間中断しただけで、血圧や心拍数が著しく上昇し、血管の機能が悪化したことが報告されています。
このように、自己判断での中断は極めて危険な行為なのです。
朗報:CPAP治療を「卒業」できるケースもある!

では、一生CPAPを使い続けなければならないのでしょうか?

いいえ、そんなことはありません。
睡眠時無呼吸症候群の「根本原因」が解消されれば、CPAP治療を安全に終了できる可能性があります。
CPAP治療をやめられる主なケースは以下の通りです。
1. 「減量」による改善
睡眠時無呼吸症候群の最大の原因は、首回りや喉の周りの脂肪沈着による気道の狭窄です。
そのため、減量は最も効果的な根治療法となり得ます。
実際に、体重と無呼吸の重症度には密接な関係があることが、多くの研究で示されています。
以下のリストは研究報告の例です。
・ある米国の研究では、体重が10%減少すると、無呼吸低呼吸指数(AHI※)が26%減少したと報告されています。
・最近の複数の研究を統合した解析では、BMIが10%減少するとAHIが36%、BMIが20%減少するとAHIが57%改善したことが示唆されています。
※AHI(Apnea-Hypopnea Index):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数。この数値が5回以上でSASと診断され、一般的に20回以上でCPAPの保険適用となります。
減量によりAHIが基準値(CPAPの保険適用外となるAHI20未満など)まで改善すれば、CPAPからの離脱が視野に入ってきます。
2. 外科手術による原因の除去
子どもの無呼吸の原因として多い扁桃(へんとう)肥大やアデノイドが大人になっても残っている場合や、下顎が小さいなどの骨格的な問題がある場合、外科手術によって気道を物理的に広げることで、症状が劇的に改善することがあります。
ただし、手術にはメリット・デメリットがあり、適応となるかどうかは専門医による慎重な判断が必要です。
3. その他の治療法への切り替え
軽症から中等症の患者さんでは、マウスピース(口腔内装置)を作成し、睡眠中に下顎を前方に固定することで気道を広げる治療法も選択肢の一つです。
絶対に守ってほしい約束:CPAPの中止は「自己判断」ではなく「医師の診断」で
CPAPをやめられる可能性についてお話ししてきましたが、最も重要なことをお伝えします。
それは、治療の中止は、絶対に自己判断で行わないでくださいということです。
「いびきが減ったから」「体重が目標まで落ちたから」といって、安易にCPAPをやめてしまうのは危険です。
CPAPからの離脱が可能かどうかは、終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)検査という精密検査を再度行い、AHIなどの客観的なデータが安全なレベルまで改善していることを確認して、医師が最終的に判断します。
まとめ:未来の「CPAP卒業」を目指して、今できること
CPAP治療は、睡眠時無呼吸症候群による様々な健康リスクからあなたを守る、非常に有効で安全な治療法です。メガネと同じように、まずは「頼れるパートナー」として上手に付き合っていくことが大切です。
そして、その治療を継続しながら、根本原因である肥満の解消や生活習慣の改善にぜひ取り組んでみてください。
日々の少しの努力が、数年後の「CPAP卒業」というゴールにつながる、最も確実な道です。
当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせ、CPAP治療のサポートはもちろん、減量や生活習慣に関するアドバイスも積極的に行っています。
治療に関する不安や疑問があれば、いつでもお気軽にご相談ください。
当院の睡眠時無呼吸症候群の診断・治療(CPAP:シーパップ)料金などの詳細はこちら

参考文献
- Weight reduction and the impact on apnea-hypopnea index: A systematic meta-analysis. (2024-06-15)
- Weight reduction and the impact on apnea-hypopnea index: A systematic meta-analysis.
- Effect of Weight Loss on the Apnea Hypopnea Index is Related to Waist | DMSO. (2024-01-27)
- Weight reduction and the impact on apnea-hypopnea index: a meta-analysis | SLEEP. (2023-05-29)
- Does Weight Loss Affect the Apnea/ Hypopnea Index? – ENTtoday. (2014-10-05)
- 【今すぐやめたい人必見】CPAP治療をやめる方法やAHIで肥満の人の減量目標値を解説. (2023-07-31)
- 睡眠時無呼吸症候群患者における CPAP 中断による睡眠構築の変化.
- Impact of continuous positive airway pressure therapy withdrawal in patients with obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial | Request PDF – ResearchGate. (2025-05-28)
- Withdrawal of CPAP therapy results in rapid recurrence of OSA – ScienceDaily. (2011-08-12)
- Impact of continuous positive airway pressure therapy withdrawal in patients with obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial – PubMed. (2025-04-01)
- Withdrawal of CPAP Therapy Results in Rapid Recurrence of OSA.
- Impact of Continuous Positive Airway Pressure Therapy Withdrawal in Patients with Obstructive Sleep Apnea: A Randomized Controlled Trial | European Respiratory Society.
- CPAPをやめたい人が知っておきたいこと – 阪野クリニック. (2023-02-07)
- 「CPAP、もうやめたい…」後悔しないために。中止のリスクと正しいやめ方 – 神戸きしだクリニック. (2025-06-06)
- 【睡眠時無呼吸症コラムVol.8】どのくらい痩せれば無呼吸症は改善する?. (2024-05-02)
- Scottish Intercollegiate Guidelines Network(SIGN)による成人における睡眠時無呼吸症候群(SAS)のガイドライン – 大阪回生病院.
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020: 書籍 – 南江堂.
- CPAP(シーパップ)療法をやめたいけどどうすればいいのか分からない方へ. (2024-11-11)
- 睡眠時無呼吸症候群 | 症状、診断・治療方針まで – 今日の臨床サポート. (2024-03-21)
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 – 学会誌・出版物. (2020-07-30)
- 「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン 2020」発行の母体・委員構成.
- 睡眠時無呼吸症候群は減量で改善する?肥満との関係や減量方法を解説. (2025-01-20)
- 無呼吸の最新論文 – 岡部クリニック.
- CPAPとAHIの関係性|治療による無呼吸指数の変化と目標値. (2025-05-11)
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