「エアコンつけてね」と何度言っても、実家の親は「大丈夫、風が通るから」「電気代がもったいない」の一点張り…。
電話を切るたびに、モヤモヤと不安が残る——そんな思いをしていませんか?
実はこの「親がエアコンをつけない問題」、根性や節約意識の問題ではなく、加齢による体の変化が原因です。
だからこそ、正しい理解に基づいた「作戦」が必要になります。
この記事では、説得がうまくいかない理由と、今日から実家で使える現実的な対処法をお伝えします。
皆さん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です。
地域医療の最前線で25年、家庭医療専門医として、ご高齢の方とそのご家族の健康に向き合ってきました。

毎年夏になると、外来で娘さん・息子さん世代から必ず受けるのがこの相談です。今日はその答えをまとめてお話しします。
目次
なぜ親は「暑くない」と言うのか——気合いではなく、体の変化です
まず知っていただきたいのは、ご高齢の方は本当に「暑さを感じにくくなっている」ということです。
加齢とともに皮膚の温度センサーが鈍くなり、汗をかく機能も低下します。
さらに、のどの渇きを感じるセンサーも衰えるため、脱水が進んでいても「のどが渇かない」のです(※1)。
つまり、親御さんの「暑くない」「のどは渇いていない」は嘘でも強がりでもなく、本人の感覚としては本当のこと。
ここを理解せずに「暑いでしょ!」と正論をぶつけても、話は平行線になります。

実際、総務省消防庁の統計では、熱中症で救急搬送される方の半数以上が65歳以上の高齢者で、発生場所として最も多いのは屋外ではなく「住居」、つまり自宅の中です(※2)。
「家の中にいれば安心」は、高齢者には当てはまらないのです。
「電気代がもったいない」への現実的な対処法5つ
1. 「数字」で見せる——感覚ではなく温度計で判断してもらう

感覚が当てにならないなら、判断基準を数字に置き換えるのが一番です。
大きな文字の温湿度計を居間と寝室に置き、「室温28℃を超えたらエアコン」「湿度70%を超えたら除湿」というルールを紙に書いて貼ってください。
「暑かったらつけてね」ではなく「この数字になったらつけてね」。
これだけで行動できる方は多いです。
2. 電気代の「実額」を伝える
「もったいない」と言う方の頭の中では、エアコンの電気代が実際よりずっと高く見積もられていることがよくあります。
最近の省エネエアコンなら、冷房の電気代は1時間あたりおおよそ数十円程度。
「一晩つけても缶コーヒー1本分くらいだよ。熱中症で入院したら、差額ベッド代だけで1日数千円かかるからね」
と、比較で伝えると納得されやすくなります。
3. 「あなたのため」ではなく「別の理由」を作る
親世代には「自分のために贅沢はしない」という価値観の方が少なくありません。
そこで効くのが、理由のすり替えです。
「孫が遊びに行くから涼しくしておいて」「その部屋の観葉植物、暑さに弱いんだって」——自分以外の誰か(何か)のためなら、すんなりエアコンをつけてくれることは、外来でもよく聞く成功パターンです。

4. リモコンの「タイマー・自動運転」を設定してあげる
操作が面倒、つけっぱなしが不安、という理由でエアコンを避けている方もいます。
帰省した時に、就寝時の入タイマーと自動運転を設定し、「このボタンだけ押せばいい」状態にしてあげてください。
最近はスマートフォンから遠隔でエアコンを操作できる機器(スマートリモコン)も数千円からあり、離れて暮らすご家族が「今日は暑いから」と外からつけてあげることもできます。
5. 主治医の言葉を借りる
そして、私たち医師の立場から言えるのがこれです。
ご家族の言葉には首を振らない方も、「先生に言われたから」だと素直に聞いてくださることは本当に多いのです。
親御さんの通院に付き添った際、診察室で「先生からエアコンのこと言ってやってください」と一言添えてください。
私たちかかりつけ医は、いつでもその「悪役」ならぬ「説得役」を引き受けます。

水分は「のどが渇く前に、時間で飲む」
のどの渇きセンサーが鈍っている以上、「渇いたら飲む」では間に合いません。
おすすめは、飲むタイミングを時間と行動で決めてしまうことです。
- 起床時にコップ1杯(睡眠中に失われた分の補給)
- 朝・昼・晩の食事と、10時・15時のお茶の時間
- 入浴の前後にコップ1杯ずつ
- 寝る前にコップ1杯
「夜トイレに行きたくないから、夕方以降は水分を控えている」という方も多いのですが、これは夏場はとても危険な習慣です。
就寝中の脱水は熱中症だけでなく、脳梗塞のリスクも高めます(※1)。寝る前の1杯はぜひ習慣にしてください。

これは危険!すぐに対応すべきサイン
もし実家で、あるいは電話越しに次のような様子があれば、熱中症を疑ってください。
- めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の汗
- 頭痛、吐き気、体のだるさ、まっすぐ歩けない
- 呼びかけへの反応がおかしい、意識がもうろうとしている
対応の基本は、涼しい場所へ移動、衣服をゆるめる、首・脇の下・足の付け根を冷やす、水分と塩分(経口補水液)の補給です。
ただし、意識がおかしい・自分で水が飲めない場合は、ためらわず119番通報を(※3)。
救急車を呼ぶか迷った時は、救急安心センター「#7119」に電話すると判断を手伝ってもらえます。
見落としがちな注意点——血圧や糖尿病の薬と夏の関係
最後に、医師として特にお伝えしたいのがこの点です。
高血圧や心臓の病気で使う利尿薬、糖尿病の治療薬の一部(SGLT2阻害薬など)は、体から水分を出す方向に働くため、夏場は脱水のリスクが高まることがあります(※3)。
「じゃあ夏は薬をやめた方がいいの?」と思われたかもしれません。
そう考えたくなるお気持ちはよく分かります。
ですが、自己判断での中断は血圧や血糖の急な悪化を招くため、絶対に避けてください。大切なのは、やめることではなく「夏仕様に調整すること」。
かかりつけ医に「夏の脱水が心配」と一言相談していただければ、お薬の内容や水分のとり方を個別に見直すことができます。
おわりに——「言っても聞かない」から「仕組みで守る」へ
親御さんの熱中症対策は、説得で変えようとするほどこじれます。
温度計という数字、タイマーという仕組み、孫という理由、そして主治医という第三者——今日ご紹介した「仕組み」を、できるところから一つ、この週末に実家へ持ち込んでみてください。
そして、ご自身やご家族の血圧・糖尿病のお薬と夏の付き合い方が気になった方は、下記も参考になさってください。
夏は血圧が動きやすい季節です
「冬より血圧が下がっている気がする」「薬はこのままでいいの?」——夏の血圧の疑問に、専門ページでお答えしています。
お薬の調整や熱中症予防のご相談は、ネットから24時間予約できます。
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参考文献
- ※1 環境省「熱中症環境保健マニュアル」
- ※2 総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」
- ※3 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン」



