こんな疑問や不安はありませんか?
- 父親が帯状疱疹になってしまい、痛みが数年以上続いているんですが、そうならないためにどうしたらいいですか?
- 一度帯状疱疹になったらもう一度かかることはあるんですか?
- 帯状疱疹の治療薬の効果は?
- 帯状疱疹の予防ワクチンの効果、副反応は?
こういった疑問に答えます。
今回の記事の内容です。
目次
【2人に1人が発症?!】帯状疱疹の症状 原因 治療からワクチンまで徹底解説
皆さん こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です。
この記事を書いている私は、総合診療、プライマリ・ケアを専門に医者歴23年の経験と知識を活かして最新のエビデンス(医学的根拠)をもとに皆さんに役立つ健康情報を解説していきます。
増加の一途をたどる帯状疱疹
帯状疱疹は近年、増加の一途をたどっており、アメリカでは、年間120万人以上が発症しています。ある研究では、85歳までに2人に1人が発症すると言われています。
いかに、よくある病気、身近な病気であるかわかります。
それだけに予防や早期の治療が大切です。
今回の動画をみることで、一人でも多くの方が、帯状疱疹による痛みから軽減され、また帯状疱疹後神経痛、角膜障害のような合併症を予防することで、毎日イキイキとした生活ができることに役立つと思いますので最後までご覧ください。
放置すると大変なことに…
帯状疱疹は放置すると怖い合併症がありますが、何と言っても頻度が多いのが、帯状疱疹後神経痛(略:PNH)です。
これは、帯状疱疹の症状が出現してから、90日以上痛みが続くことをいいます。
帯状疱疹後神経痛(PNH)になると、症状は様々ですが、ヒリヒリ、ズキズキといった痛みや、うずくような痛みを体の奥で感じたり、風が吹いただけでも痛むと言う方もいます。
ひどい方は睡眠にも影響が出るような痛みが数ヶ月あるいは、数年以上続くケースもあり、自分が担当する外来でも、なかなか治らないと言って遠方からいらっしゃる方もいます。
ある文献によれば、帯状疱疹になった成人患者さん全体の約18%が帯状疱疹後神経痛(PNH)という合併症を起こすという報告があります。
これが、79歳以上の高齢者になると、30%以上の方にPNHが発症したという報告もあるから驚きです。
他にも、ウイルスが暴れる体の部位で異なりますが、めまい、難聴、髄膜炎、脳炎、角膜障害など、怖い合併症がありますから放置するのは危険です。
帯状疱疹とは?
そもそも帯状疱疹とはなにか?
また痛みの出るメカニズムを知っておくことで、帯状疱疹の治療や予防が理解しやすくなりますので解説します。
帯状疱疹とは水痘・帯状疱疹ウィルス(略:VZV)が原因で、ピリピリ、ズキズキといった痛みを伴って、発疹や水ぶくれが帯状にできる皮膚の病気です。
発疹は体の片側にできることがほとんどです。
なにかを隠そう、この水痘・帯状疱疹ウイルスは、子供の頃にかかる水痘ウイルスそのものです。
成人の約90%がこの水痘 ・帯状疱疹ウイルスを持っていると言われており、それが再び暴れだすことで発症します。
ある研究では、85歳までに2人に1人が発症すると言われています。
いかに多いかわかりますし、帯状疱疹後神経痛などの合併症を予防することを考えると、どれだけ予防や治療が大切か、わかっていただけるかと思います。
どうして帯状疱疹という名前なのですか?
ここまで聞いた方はそれだったら帯状疱疹ではなくて、再発性水痘みたいな名前でも良いのではないか?と思っている方も少なくないのではないか?と想像します。
まさにその通りで、研修医の頃、同じように思っていました。
この帯状疱疹という名前がなぜ診断名になっているのか?理解できると、発疹の早期発見に役立つと思います。
✔「帯状」と言うのは写真のように帯を巻くように発疹が分布すると言う意味です。
✔帯状疱疹の「疱」=「水疱」を意味します。
水疱とはこんな感じです。中にお水が入っている感じに見えますよね。
帯状疱疹の「疹」は「発疹」という意味です。
発疹とは、目で見て分かる急な皮膚の変化を意味しています。虫刺され、かぶれなども、大きな意味で、発疹になります。
まとめると、帯状疱疹とは、発疹や水疱が、体の片側に帯状に分布する病気と解釈できます。このように考えると、帯状疱疹という名前が覚えやすいのではないかと思います。
痛みが出るメカニズム
では、どうして帯状疱疹では、ピリピリ、うずくような痛みなどがでるのでしょうか?
ここを理解できると、治療や予防の大切さがより一層わかります。
まず下の図のように、私たちがもっている脳から下には、体中に神経を張り巡らす脊髄神経があります。
この図ですと足の方向に長く続く黄色い部分です。
さらに、脊髄神経を輪切りにしたのが下記の写真です。太い脊髄神経の脇に神経節というのがあります。(赤い→部分)
ここに、子供のころにかかった、みずぼうそう(水痘)ウイルスが身を潜めて残ります。
皆さん 子供の頃に、水痘(みずぼうそう)に感染したことがありますよね。
その水痘(みずぼうそう)が、脊髄の神経節に潜んで、患者さん自身が高齢になったり、疲れやストレスがたまって免疫力が低下したときに帯状疱疹が発症します。
細田先生、ということは、私の体にも、水痘・帯状疱疹ウイルスが潜んでいるということですか?
はい、そのとおりです。成人の約90%が水痘(みずぼうそう)が体のなかにあると言われています。
でも私は水痘にかかった記憶がないので、もしかしたら、帯状疱疹にかからないということですか?
その質問に対しては、2つのことが考えられます。
①ひとつは、幼少期にすでに感染していて、その記憶がないと言うことです。
もし心配なら、お母さんに自分がみずぼうそうにかかったことがあるか?確認してみてください。
②ふたつめは、本当に水痘 ( みずぼうそう )に感染していないので、水痘 ウィルスが自分の体の中に潜んでいないと言うことも考えられます。
なるほどです。ということは、本当に感染していない方は、これから水痘 ( みずぼうそう )に感染する可能性があるということですよね?
はい、そのとおりです。
水痘 ( みずぼうそう )に感染した場合は、下の写真のように全身に水泡が子供の時に感染した時と同じように出ると思います。
帯状疱疹の痛みや合併症を予防するために初期症状を知ることが大事!
初期症状の段階で治療することで、治癒するまでの期間を短くすることができます。
おおよそですが、
✔帯状疱疹を治療しない場合:治癒するまでに20日間前後かかる
✔帯状疱疹を発症してから早期に治療した場合:治癒するまでに10日間前後かかる
この数字をみてどう思われますか?
治療した場合は、治癒するまでの期間は、50%も期間を短縮できることがわかりますね。
ある研究(メタアナリシス)では、アシクロビルという抗ウイルス薬を、帯状疱疹になってから48-72時間以内に投与した場合は、帯状疱疹後神経痛(PNH)のリスクを46%減少させたという報告があります。
治癒期間は半分にできるし、帯状疱疹後神経痛のリスクも46%も減らせるんです!
ただし、48-72時間以内に、、、ということですから、繰り返しになりますが初期症状の特徴を知ることが大切なんですね。
帯状疱疹の初期症状
大切なことなので、繰り返します。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、脊髄神経のそばにある、神経節(下部の絵のあかいところ)に普段は潜伏していますが、免疫力が弱ったり、加齢(特に50歳以上になると)によって、発症します。
神経節から、ウイルスは神経を侵しながら皮膚の方向にむかっていきます。このときに神経が炎症を起こしながら、皮膚にでてくるわけですね。
これから、1から5の順番、どのように、帯状疱疹の発疹が時系列に変化するのか?時系列に写真でおみせします。
ちなみに、1~5まで段階的に写真を明示しておみせしますが、1~3が初期症状のことが多いと思います。
皮膚症状1段階目.発疹がでる前に痛みやひりひり感だけ感じる(写真1)
発疹はないけど、昨日から右腕がピリピリするのですが….。
こんな感じで外来に患者さんが受診した場合は、帯状疱疹かもしれません。
(写真1)
写真1のように、発疹はひとつもありませんが、典型的には、患者さんからは
「皮膚がヒリヒリ、ピリピリする、ズキズキする感じ。」と表現することもあります。
皮膚症状2段階目.赤い発疹のみ(特に赤丸で囲んだ部分は、典型的)
(写真2)
写真2のように、最初は赤い平坦な発疹であったり、虫刺されのような発疹が数個集まってるようにみえることもあります。
皮膚症状3段階目 水疱が出現
(写真3)
上の写真3で赤丸で囲んだ部分が透明な水疱になっていますが、一箇所に水疱が複数あつまっていますよね。これを集属性の水疱といいまして、ドクターがこの発疹をみたら、「あ!帯状疱疹ですね。」とほぼ診断がつきます。
皮膚症状4段階目.膿疱が出現
( 写真4:右側のせなか)
発疹がでてから、4-6日程度経過すると、透明だった水疱が、黄色いうみのたまった膿疱に変化します。このタイミングでは、痛みが強い方が多い印象があります。
皮膚症状5段階目. かさぶた出現
(写真5 右うで)
赤丸で囲んだところが、かさぶた(痂皮)に近い状態です。治癒の方向に向かっていると捉えます。上の写真の患者さんでは、水疱の部分もあるので、全体としては完治している状況ではありません。
帯状疱疹の抗ウイルス薬は、どのタイミングで飲んだらいいの?
これもよく聞かれる質問です。
結論からいうと、症状がでてから、72時間以内となります。
症状がでてから、72時間以内に来院されて、赤くはれていたり、ただれたり、水疱がある状態のときに、飲むと下記のような治療効果があるとすでに説明しました。
帯状疱疹の治療効果
✔帯状疱疹を治療しない場合:治癒するまでに20日間前後かかる
✔帯状疱疹を発症してから早期に治療した場合:治癒するまでに10日間前後かかる
※治療した場合は、治癒するまでの期間は、50%も期間を短縮できることがわかります。
また、ある研究では
私の妻は、発疹がでてから、5日間〔120時間)以上、経ってから病院に行きました。
上の写真でいうと、水疱や膿疱が右の背中にあり、痛みも強かったみたいです。
そのとき、主治医の先生が、ウイルスを退治する薬を処方してくれたんですが、それって効果があったんでしょうか?
上記のやりとりのように、72時間以上経過していても、ただれたり、水疱がある場合は薬を飲んだほうが治るまでの期間は短縮されることが期待されます。
帯状疱疹にかかりやすい原因は?
加齢
帯状疱疹にかかるリスクの90%が加齢だと言われています。
50歳を過ぎると急に帯状疱疹になる頻度が増えます。
症例の20%は、50-59歳の間に発症し、40%以上は、60歳以上で発症します。
85歳までに生きる人の約50%が帯状疱疹に一度は感染していると推測されています。
ストレス、過労
ストレスや過労は、帯状疱疹の発症する大きな原因の1つになります。私が担当した患者さんは、交通事故をきっかけに発症した方もいました。
2.3日ぐらい眠れなかったと言いますから、それによって免疫力が下がたことも推測されます。
ストレスや疲労を溜めないように、気分転換や、十分な睡眠が必要ですね。
糖尿病、膠原病、がんなど
糖尿病、がん、膠原病、肥満などもここに含まれます。
糖尿病でも、HbA1cといって、過去2ヶ月間の血糖がどのくらいだったかを示す指標が、8とか9とか非常にコントロールが悪い方、血糖が食前で170以上、食後で300など高い数値の方は、免疫力が落ちているので、感染しやすいですね。
他にもリウマチやがんなど、免疫力が低下するような病気があると帯状疱疹にかかりやすくなりますし、逆に帯状疱疹が見つかることでこれらの病気が発見されると言うこともあります。
例えば帯状疱疹の痛みがなかなかよくならない、などの方に血液検査をしたら、糖尿病だったという患者さんもいました。
またがんの放射線治療や抗がん剤、リウマチなどの治療薬であるステロイドや免疫抑制剤といった薬自体が誘引になったりする場合もあります。
原因が思い当たらない方はこちらの検査がおすすめ!
帯状疱疹として主な原因3つを挙げましたが、特に原因が思いつかない場合には、自治体の検診などを利用して悪いところがないか調べてみることをお勧めします。
自治体等で受けられる検査として下記の2つがあります。
✓特定健康診査:40から74歳を対象にメタボリックシンドロームを早期発見するための健康診断。糖尿病や高血圧、肝炎などの発見に役立つ
✓がん検診:自治体では、大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、子宮頸がんなどの検診を実施。
さらに、上記でも原因がみつからないけれど
✓発熱が続く
✓食欲がない
といった症状があるときは早めに医療機関を受診することを推奨します。
若い方で発症を繰り返す方はHIV感染にも注意が必要!
他にもHIV感染した患者の既往歴の第3位に帯状疱疹も入っており、若い方で発症を繰り返す方はHIV感染症も疑う必要があります。
帯状疱疹は人にうつる(感染)んですか?
すでに説明していますが、帯状疱疹はウイルスによっておこる病気ですが、体内に潜伏している水ぼうそうのウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス:VZV)が暴れ出すことで発症します。
ですから、帯状疱疹が帯状疱疹として周りの人に感染(うつる)することはありません。
しかし、水ぼうそうにかかったことがない方、水ぼうそうの予防ワクチンも受けてない人には、帯状疱疹の原因となるウイルス(VZV)に感染する危険性はあります。
その場合は、帯状疱疹でなく、下の写真のように水痘 ( みずぼうそう )として発症します。
帯状疱疹の場合は、下の写真の赤丸で囲んだところのように、水ぶくれの中などに大量に含まれています。くしゃみや、咳などによる飛沫感染の心配はありませんが、水疱から浸出液といって炎症を起こすことで出る液に触ってしまった人が、その指で、目や口元を触ると感染するリスクがあります。
ですから発疹の状態によっては、ガーゼなどで覆う必要があります。(詳細は、帯状疱疹の治療のページで解説します。)
帯状疱疹の合併症
合併症1.帯状疱疹後神経痛(片側の身体のしびれ、うずくような痛み)
これは帯状疱疹の発疹がでてから3ヶ月以上経過しても、痛みが続く場合を帯状疱疹後神経痛とよびます。痛みは主に神経そのものがダメージを受けることで発生する痛みです。
帯状疱疹合併症のなかでも多く、痛みは帯状疱疹がある皮膚の領域で自覚して、痛みの程度は、軽いものから、重いものまで様々です。
帯状疱疹後神経痛は10~15%の人に発症し、その約半数は60歳以上の高齢者にみられます。
痛みの特徴を、患者さんは「焼けるような」「うずくような痛み」と表現される方が多い印象があります。
また、本来なら痛みを感じない程度の軽い刺激でも激痛を感じる患者さんもいます。
私が担当した患者さんの中には、風が吹いただけでも痛む、服が擦れただけでも、飛び上がるほど痛むと表現した方もいらっしゃいました。
また、不眠、体重減少、気分の落ち込みなどメンタルの問題も引き起こし、通常の日常生活に支障をきたすほど深刻な場合もあります。
細田先生、そんなに辛いのですね?帯状疱疹後神経痛の特効薬はあるんですか?
帯状疱疹後神経痛は、❍❍の治療を受ければすぐに痛みがなくなると言う方法がないのが現状です。
ただ、痛みを軽減する薬や、予防ワクチンはあるので、こちらについてはあとで解説します。
帯状疱疹後神経痛の痛みが続く期間は?
しかしながら神経がダメージを受けたからといって、一生治らないと言うものではありません。痛みが続く期間は人によって大きく違います。
✓軽い人では数ヶ月(3~6ヶ月)ほどで改善しますし
✓重い人では5年から10年に及ぶ場合もある
のですが、根気よく治療を続ければ症状は少しずつ軽減されていきます。
ほとんどの場合、帯状疱疹後神経痛の痛みは時間とともに徐々に改善しますが痛みがほぼ消失するまでには、平均3年程度かかるという報告もあります。
痛みを和らげるための方法は人によって異なるため、Aと言う治療を試しても効果がなければ諦めずにBと言う方法を使い、BでもダメならCという方法を試していくと良いでしょう。
そのようにして自分にフィットした治療法が見つかり、痛みが軽減してきたら、日常生活の行動範囲を広げて、できるだけしたいことに積極的に取り組んでいくと、いつの間にか痛みが気にならなくなっていきます。
特定の治療薬や治療法に頼らなくても、日常生活が過ごせるようになれば、治療は完了したといえます。
合併症2.眼部帯状疱疹(視力障害、角膜障害、失明)
眼の合併症は眼部帯状疱疹と呼ばれます。
下の写真(A)のように、三叉神経という脳から伸びてきた3本の神経の根本のほうに潜んでいたウイルスが加齢や、ストレス、疲労によって暴れ出すと2番目の写真Bのように、まぶたや額(ひたい)などに発疹がでてきます。
↑三叉神経とは、写真のように、脳から伸びて顔の感覚を司る3本の神経
↑(写真B)眼部帯状疱疹の発疹(顔面右側に相当)
症状としては
発熱
片側の眼、額、頭頂部の痛みや感覚の麻痺
などあります。
また目の付近なので、目のかすみ、霧視、結膜充血、涙が多くなるといった症状もでることがあります。
帯状疱疹に合併する眼部帯状疱疹の発症率は、8-20%と言われています。
その後、下の写真Bのように、鼻の頭に発疹が出始めると、ぶどう膜炎という目の病気になる可能性もあるので注意が必要です。
(写真B)
(患者さんに許可をいただいて掲載させていただきました。)
ぶどう膜というのは、眼球全体を包むように広がっている組織です。下の写真のように眼球全体を覆っているオレンジの部分がぶどう膜です。
また目があかくなってきたら、角膜炎になっている可能性もあります。ちなみに、角膜というのは、上の写真の赤色の部分です。
ほかにも、網膜の損傷(急性網膜壊死と呼ばれる)などもあります。
最悪失明になることも…
これらの合併症は重篤で、もしも、眼の周りに帯状疱疹がでてきから抗ウイルス薬を飲まずに経過をみた場合は、眼部帯状疱疹の患者さんの約50%が角膜障害に至り、最悪、失明になることもあるので注意が必要です。
目の近くに帯状疱疹の水疱があったり、目の痛みや知覚過敏などの症状がある場合は、すぐに医療機関に伝えてください。
失明!?そんな怖い合併があるのは知らなかったです。なるべく早く治療すれば予防できるんですか?
そうですね。なるべく早めに治療すること、そしてワクチンをすることでかなりの割合で防ぐことができます。
わかりました。ところで、目の合併症を疑う前兆はありますか?
眼部帯状疱疹の前兆としては、頭痛、倦怠感、発熱、片側の眼、額、頭頂部の痛みや感覚の麻痺などあります。
ですから、これらの症状があれば、要注意です。
合併症3.めまい、難聴、顔面神経麻痺
耳や頬(ほお)、あご、首、口の中などに帯状疱疹ができてから、耳が痛み始め、数日続いたあとから、めまいや難聴を起こすことがあります。
また下の写真C のように、顔面神経にウイルスがダメージを与えると、帯状疱疹が出た側の顔の筋肉が麻痺として、目や口を動かすのが困難になったりすることがあります。
(写真C)
上の写真C をみると、むかって左側のほうれい線が、右と比べて浅くなっているのがわかりますよね。
このようにめまい、難聴、顔面神経麻痺などの症状が出た場合を、ラムゼイハント症候群とよんだりします。
帯状疱疹の合併症のひとつで、発疹が消えたあとも、長いと数年続く場合があるので、要注意です。
細田先生 ラムゼイハント症候群も怖い合併症ですね。病院を受診するタイミングを教えてください。
発疹や耳の痛み、舌のしびれ感を自覚したら、すぐに眼科や耳鼻科を受診してください。
帯状疱疹後神経痛と同じように、早く治療したらそれだけ予防できる確率が高まります。
細田先生 治療はどういう感じなのですか?
合併症の危険が高ければ、あとで説明する抗ウイルス薬や、ステロイド薬を使います。
適切に使えば合併症の発生を予防できます!
合併症4.髄膜炎、脳炎
あとは、発疹が頭皮にできたときは、脳炎や、髄膜炎にも注意が必要です。特に高齢者や、免疫を抑えるような薬(ステロイド薬、免疫抑制剤)を飲んでいる方は 注意が必要です。
合併症のまとめ
合併症とその症状のまとめ
■眼部帯状疱疹(目のかすみ、霧視、結膜充血、涙が多くなる、視力障害、網膜壊死、角膜炎、ぶどう膜炎など)
■ラムゼイハント症候群(耳の痛み、耳たぶや耳道の水疱、口内炎、めまい、難聴、顔面神経まひ)
■髄膜炎、脳炎
がありました。
いずれも、早期発見して治療することが合併症を予防することに役立ちますので、初期症状を放置しないことが大切です。
何科を受診したらいいですか?
帯状疱疹を専門とするのは基本的に皮膚科になります。私のように総合診療を専門にしている医師や、内科の医師も対応できると思います。
ただし、既に説明した通り、発疹が出るまでに1から4日程度かかるので、最初はピリピリした、ズキズキするといった感覚しかありません。
のどに出現する帯状疱疹だと、扁桃炎や口内炎かも??と耳鼻科を受診することもあります。
また、胸が痛い場合は狭心症や心筋梗塞かも?と不安になって内科を受診するケースもあります。
また、腰にできたら腰痛という訴えで来院されたケースを何度か経験したことがあります。
また、肩のあたりにできた場合は、肩こりと言ってくる方もいますので、医師は患者さんのいった言葉を聞くだけでなく、皮膚を見るということがとても大事なのは言うまでもありません。
帯状疱疹の治療法
治療の目的は3つ
2.50歳以上に多い、帯状疱疹後神経痛を予防する
3.帯状疱疹による水疱などが傷あととして、残らないようにできるだけ早く治す
それでは、実際にどのように治療するのでしょうか?
■帯状疱疹は、神経に感染したウイルスによって起こるので
⇒抗ウイルス薬が治療の基本です。(詳細は後ほど解説)
■感染によりおきた神経の痛み
⇒主に痛み止め(消炎鎮痛薬)で炎症を軽減させます。(詳細は後ほど解説)
■帯状疱疹後神経痛の痛みや、発症時の強い痛み
⇒三環系抗うつ薬(詳細は後ほど解説)や、神経ブロックで対応
■帯状疱疹が起きた部位の水疱
⇒外用剤や、ガーゼで対応(詳細は後ほど解説)
上に挙げた抗ウイルス薬、痛み止め(消炎鎮痛剤)や、帯状疱疹後神経痛の薬、水疱そのものに対する外用剤(ぬり薬)についてこれから解説します。
抗ウイルス薬
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスが神経をおかしながら、皮膚に出てくる病気でした。帯状疱疹に使う抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑える薬になります。
実際に抗ウイルス薬を飲むことで具体的にどのような効果が期待できますか?
効果には大きく2つあります。
1つ目は帯状疱疹自体を早く治すことです。
大雑把ですが、薬を飲むと治るまでの期間を半分くらいに短縮することができます。
2つ目は帯状疱疹後神経痛のリスクを減らすことです。
ある研究では、6つのプラセボ対照試験のメタアナリシス(医学的根拠のもっとも高い研究)で、発疹の発症から48~72時間以内にアシクロビル(800mgを1日5回)を投与された患者は、帯状疱疹後神経痛のリスクを46%減少したという報告もあります。
抗ウイルス薬を飲むことで、帯状疱疹後神経痛のリスクを50%近く減らせるのは大きいですね!
以下に、よく使われる抗ウイルス薬を3つ掲載しました。
種類によって飲む量も飲む回数も値段も変わってきます。腎機能が悪い人は飲めない薬もあるので注意が必要です。
薬剤名 | 一般名 | 飲む量と回数、期間 |
アメナリーフ | アメナメビル | 2錠✖1日朝1回 1週間 |
ファムビル | ファムシクロビル | 2錠✖1日3回食後 1週間 |
バルトレックス | バラシクロビル塩酸塩 | 2錠✖1日3回食後 1週間 |
帯状疱疹の抗ウイルス薬にも色々とあると言うことがわかりましたけれども、腎機能が悪い人は飲めない薬と言うのはどれですか?
ファムビルと、バルトレックスと言うのは、腎臓の機能が悪い人には少し減らして飲むなど注意が必要です。一方で、アメナリーフと言う薬は腎臓の機能が悪い人にも飲めること、1日1回の内服で効果があるのが特徴です。
ただし、この薬は食事の影響を受けるので、食事後すぐに飲んだほうが薬の成分の吸収率が高くなります。
痛み止め(消炎鎮痛剤)
抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑えるので、まず必要な治療ですが、患者さんにとって最も辛いのは痛みですから、鎮痛薬で痛みを取ることも大変重要です。
痛みを我慢したり放置したりすると、痛みの刺激でさらに神経が興奮して血流も悪くなり、結果的に血行不良を招きます。
それによってますます痛みが強くなっていくという悪循環になってしまうのです。
血行が悪くなることで、神経自体のダメージも大きくなります。後遺症を残さないためにもできるだけ痛みを抑えることが大切なんですね。
たまに痛み止めを使いたくないと言う患者さんがいらっしゃいますが、そういった患者さんには、もちろん、無理強いはしませんが、使うメリットとして今のような説明をして使うことを推奨しています。
逆にいうと、痛みを沈めることで神経の興奮が収まって血管が広がり血流が良くなるわけですね。
すると抗ウイルス薬も作用しやすくなるという良い循環になります。
アセトアミノフェン
鎮痛薬としてよく使われるのがアセトアミノフェンです。
アセトアミノフェンの鎮痛作用は、痛みが脳に行く信号を抑えることによってもたらされると考えられていますが、どうやって効果がでるのか?まだ完全には解明されていませんが、副作用も少ないため、最初に使いやすい薬ですね。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)
また、非ステロイド性抗炎症薬が使われることもありますが、痛みの原因であるプロスタグランジンと言う物質を減らすことで痛みを軽減することに役立ちます。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)としてよく使われるのが以下になります。
商品名 | 一般名 |
ロキソニン | ロキソプロフェン |
ブルフェン | イブプロフェン |
セレコックス | セレコキシブ |
ボルタレン | ジクロフェナク |
バファリン | アスピリン |
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)は、副作用が多いから、あまり飲まないほうがいいと聞いたのですが、本当なんですか?
そうですね。確かに、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)は胃潰瘍、腎機能障害などの副反応がアセトアミノフェンに比べて多いですが、痛みを軽減する効果も強いので、短期間であれば心配ないと思います。(※胃腸が悪い方や腎機能がもともと悪い方は主治医によく相談して使う必要があります。)
腎機能障害の可能性はどのくらいなのですか?
非ステロイド性抗炎症薬の副反応の一つである腎機能障害は1%程度です。
痛みを我慢しすぎると、脳が痛みを記憶して慢性的な痛みにつながりやすいと言われているので、薬を上手に使い分けることが大切ですね。
胃潰瘍や腎臓がわるい人は、どうしたらいいですか?
アセトアミノフェンにはこういった副作用がないため、非ステロイド性消炎鎮痛剤に比べて副作用が少なく、高齢者には使いやすい薬です。
あまりにも痛みが怖い場合はステロイドを使ったり、抗うつ薬などの帯状疱疹後神経痛に用いられるお薬も使われます。
帯状疱疹後神経痛を緩和する飲み薬
帯状疱疹後神経痛には、三環系抗うつ薬や、抗けいれん薬が処方されることもあります。
薬局で薬を受け取るとうつ病の薬と書いているので、びっくりされる方もいるかもしれませんが、帯状疱疹神経痛のように、神経の炎症からくる痛みに対して効果を発揮します。
例えばトリプタノールと言う薬はうつ病の場合は1日あたり100mgから200mg使うのですが、帯状疱疹後神経痛の場合は1日あたり10mgから30mg位と少量で効果を発揮するのが特徴です。
少量なので副作用も少なく使いやすい薬の1つだと感じていますが、それでも便秘や喉が渇くといった副作用も稀にあるので、そのような副作用も説明して使うようにしています。
他にはブレガバリンという神経の興奮を抑える薬がありますが、こちらの副作用としてはめまいや、足のむくみなどがあるので、足腰が弱って転びやすそうな高齢の方には特に注意して使う必要があります。
外用剤(ぬり薬)
患者さんによっては帯状疱疹の薬は塗り薬がメインだと思っていらっしゃる方もいるのですが、繰り返し解説したとおり帯状疱疹は神経がおかされる感染症なので、治療の基本はあくまでも抗ウイルス薬になります。
ただ、皮膚に出た発疹も後に残らないようにきれいに回復させる必要がありますから、そのために様々な軟膏を状態に合わせて使います。
水泡ができている皮膚ではリンパ球や白血球も増えて雑菌と戦っているので、感染は起こりにくい傾向があるのですが、水泡が潰れて、そこでばい菌が感染を起こすことがないように抗生剤の軟膏を処方することも多いです。
上の写真のように、膿(ウミ)がたまっているような膿疱や水疱がある場合は、やがて袋が破れてそこから浸出液といって汁が出ることもあるので、それに備えてガーゼで覆っておく必要があります。
薬を使うときの注意点
医師から指示された飲み薬を、決められた期間続け、再度ドクターに診てもらうと良いと思います。
症状の変化を診ることで、後どのくらいで治るか?ということが大体わかるのです。
私自身は、症状や痛みの程度によって変わりますが、3-7日程度あとに一度診察するようにしています。
ただし、皮膚の発疹がどんどん悪化してきたり、痛みがひどかったりと、困ったことや不安な変化があれば、予約日よりも早めに受診することが大切です。
その場合は薬を追加したり、別の治療法をトライすることで痛みを軽減できるかもしれません。
帯状疱疹ワクチンの効果、副作用、費用
帯状疱疹ワクチンについて
これまで、帯状疱疹の治療について説明しましたが、そもそも帯状疱疹にならないようにすることが大切です。
その予防に大きな効果を発揮するのが、ワクチンです。これから詳しく説明します。
帯状疱疹ワクチンには2つある??
細田先生、帯状疱疹のワクチンには2種類あると聞いていますが、私はどちらを選べばいいですか?
よく知っていますね。帯状疱疹ワクチンには、実は2種類あり、
生ワクチンと、不活化ワクチンの2種類があります。それぞれ、接種回数や、効果やその持続年数も異なります。
選択肢があるのはいいですが、どう違うのですか?
2つのワクチンの違いを表にまとめましたが、簡単にいうと、生ワクチンは1回の接種で50%の予防効果が約5年間持続するのに対して、不活化ワクチンでは2回の接種(2ヶ月以上の間隔をあけて)で90%以上の効果が9年以上持続します。
ワクチンの種類 製品名 | ■生ワクチン ビケン |
■不活化ワクチン シングリックス |
接種回数(種類) | 1回皮下注射 | 2回筋肉注射 |
接種間隔 | なし | 2ヶ月以上あける(2回目は6ヶ月以内に接種) |
帯状疱疹の予防効果 | 50%程度 | 90%程度 |
◯メリット | ◯副反応が少ない ◯接種料金が安価 ◯1回のみの接種で済む |
◯予防効果が高い ◯帯状疱疹後神経痛の予防効果も90%程度ある ◯持続期間が10年程度と長い |
▲デメリット | ▲持続期間は約5年 ▲免疫抑制剤を内服など免疫が低下している方は接種不可 |
▲副反応の発現率が高い ▲接種料金が高く、2回の接種が必要 |
費用 | 6,000~8,000円程度 ※金額はクリニックにより異なる ※公費助成制度がある自治体もあり |
18,000~25,000円程度 ✖2回 ※金額はクリニックにより異なる ※公費助成制度がある自治体もあり |
なるほど、表にするとわかりやすいですね。不活化ワクチン(シングリックス)のほうが効果が高いのですね。ただ、副反応の頻度が多く、金額が高いのが気になるところです。
細田先生のクリニックではどちらのワクチンを接種する方が多いのですか?
当院では予防効果が高く持続年数も長い不活化ワクチン(シングリックスワクチン)を推奨しています。
なんとなく、素人目線では、生ワクチンのほうが効果が高いイメージでしたが違うのですね。
2022年までは帯状疱疹ワクチンというと、生ワクチン(水痘 ワクチン)しかなかったのですが、2023年に不活化ワクチンが新たに認可され、その後は不活化ワクチンを接種する方が多くなりました。
生ワクチンは抗がん剤を使っている方や、リウマチなどの自己免疫疾患で免疫抑制剤など使っている人は使用できないので、こうした方は不活化ワクチンを選ぶことになります。
研究結果をもとに不活化ワクチン(シングリックスワクチン)の効果について詳しく解説
2015年に、New Ingland journal of medicine という世界的権威のある医学雑誌で不活化ワクチン(シングリックスワクチン)の有効性を検証した研究が発表されました。
この研究では50歳以上の高齢者を対象に年齢層をで層別化(50~59歳、60~69歳、70歳以上)し、18カ国でRCTと言う形式で行われました。
(RCT:ランダム化比較試験randomized controlled trialの略称)
参加者は2ヶ月間隔でワクチンあるいは偽のワクチンを2回筋肉内に注射されました。
研究方法は、合計 15,411 人の参加者を
A:シンクリックスワクチン郡 7698 人
B:プラセボ(偽の)ワクチン郡 7713 人
に分けてワクチンの効果が平均3.2年間の追跡され効果や副反応について比較検討されました。
3.2年間の観察した結果、下記のようになりました。
B:プラセボワクチン群では210 人が帯状疱疹を発症
でした。
結論としてはシングリックスワクチンが、帯状疱疹を予防するための有効性は97.2%でした。
また帯状疱疹後神経痛の発症人数は
■シングリックスワクチン群で 1 例
■プラセボ群で 18 例
という結果でした。
もう一つの研究もご紹介します。
同じくNew Ingland journal of medicine という世界的権威のある医学雑誌で、70歳以上の成人13,900人を対象に平均3.7年間追跡調査した研究もあります。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27626517/
N Engl J Med. 2016;375(11):1019.
この研究では、平均年齢75.6歳の成人を対象に13,900人が平均3.7年間追跡調査されました。
詳細は省略しますが、こちらの研究でも
帯状疱疹の予防におけるシングリックスワクチンの有効性は90%(95%信頼区間84.2-93.7)でした。
さらに、帯状疱疹後神経痛に対するワクチンの有効性は89%(95%CI 68.7-97.1)でした。
つまり、帯状疱疹ワクチンはざっくりですが、50歳以上の患者さんの帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の発症リスクを90%も下げるということです。
帯状疱疹と、帯状疱疹後神経痛を90%程度も予防できるのはすごい結果ですが、この研究では追跡期間が3.2年ということでそれ以上は効果がないのでしょうか?
とても良い質問ですね。実は、上記の2つの研究では、さらにもう7年間追跡調査されていまして、それぞれ有効性が84%と91%と報告されています。つまり約10年間は効果が持続するということです。
10年続くなら安心ですね。
シングリックスワクチンの副反応
シングリックスワクチンが、帯状疱疹や、帯状疱疹後神経痛を90%以上の高い確率で、予防できることはわかりましたが、実際に副作用はどうなんですか?
ワクチン接種後の副反応は大きく2つに分けられます。
- 1.全身の反応(発熱や筋肉痛、疲労感など)
- 2.注射した部位に現れる反応(局所反応)
これらは、ワクチン接種群でより頻度が高かったと報告されています。具体的には下記のような感じですね。
ワクチンの全身反応
ある研究によると筋肉痛が40%、疲労感38.9%、頭痛32.6%で、平均持続日数は2日でした。
ワクチンの局所反応(接種部位の反応)
注射した部位に何らかの副反応(局所反応)が出る確率は、痛み(疼痛)が78.0%、赤くなる(発赤)のが38.1%、腫れる(腫脹)が25.9%で、持続日数の平均が、約3日という結果でした。
まとめ:【2人に1人が発症?!】帯状疱疹の症状 原因 治療からワクチンまで徹底解説
今回は、自分自身の臨床経験や、再診の論文などをもとに、帯状疱疹の初期症状や、原因、治療法からワクチンについて解説しました。
帯状疱疹は50歳以上の方に発症しやすく、睡眠不足や、疲労が重なったときに発症しやすいので、予防が一番大切です。今回はワクチンを詳しく解説しましたが、それ以外にも当然、十分な睡眠、規則正しい生活、バランスの取れた食事、ストレスを溜めこまない、タバコやお酒を控えるなどの生活習慣がとても大切だということも繰り返し伝えたいと思います。
今回のブログが少しでも帯状疱疹を心配している方、そして今まさに悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。