糖尿病は治るのでしょうか?
「糖尿病になったら、一生治らないのでしょうか?」
糖尿病の患者さんを診察していると、非常によく聞かれる質問です。
健康診断で初めて「血糖値が高い」「HbA1cが高い」と指摘された方の中には、
- これから一生、薬を飲み続けるのだろうか
- 好きなものはもう食べられないのだろうか
- 糖尿病になったら元には戻れないのだろうか
と、不安になる方も少なくありません。
最初に大切なことをお伝えします。
2型糖尿病は、すべての方が「完治」する病気ではありません。しかし、適切な治療や減量によって、薬を使わなくても糖尿病の基準を下回る「寛解(かんかい)」という状態を目指せる方がいます。
ここで重要なのは、「治った」と「寛解」は同じ意味ではないということです。
この記事では、糖尿病の「寛解」とは何なのか、どのような方が寛解を目指せるのか、そしてそのために何が重要なのかを、できるだけわかりやすく解説します。
この記事を書いている医師について
こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田俊樹です。

医師として25年間、地域医療に携わり、家庭医療専門医として糖尿病をはじめ、高血圧、脂質異常症、肥満症などの生活習慣病を幅広く診療しています。
日本糖尿病学会の正会員として、当院では年間約5,000人の糖尿病患者さんを診療しています。
糖尿病は、単に「血糖値を下げればよい」という病気ではありません。
体重、食生活、運動、血圧、脂質、腎臓、心臓などを総合的に見ながら、長い目でその方の健康を守っていくことが大切です。
結論:2型糖尿病には「寛解」という状態があります
「糖尿病は治りますか?」という質問に対して、私は患者さんに、
「“完全に治って二度と気にしなくてよい”とは言えませんが、2型糖尿病では、血糖値が大きく改善し、薬を使わず糖尿病の基準を下回る状態を維持できる方がいます」
と説明しています。
この状態を医学的には「寛解(remission)」と呼びます。(※1)
糖尿病の「寛解」とは?
国際的な専門家によるコンセンサスでは、2型糖尿病の寛解は、原則として、
血糖を下げる薬を使用しない状態で
HbA1c 6.5%未満が3か月以上続いている
状態と定義されています。(※1)
つまり、薬を飲んでHbA1cが6.2%になっている場合は「非常によくコントロールされている糖尿病」ですが、この定義上の「寛解」とは別になります。

なぜ「完治」ではなく「寛解」と呼ぶの?9
「HbA1cが正常になったなら、治ったと言ってもいいのでは?」と思いますよね。
しかし、体重が再び増えたり、生活習慣が変化したり、加齢などによってインスリンを分泌する力が低下したりすると、再び血糖値が上昇することがあります。
たとえるなら、糖尿病の寛解は「火が完全になくなった」というより、「火が消えて安定している状態」に近いイメージです。
そのため、寛解した後も定期的な検査は必要です。(※1)
すべての糖尿病が寛解するわけではありません
ここは非常に重要です。
今回お話ししている「寛解」は、主に2型糖尿病についての話です。
1型糖尿病は、自分の膵臓からインスリンを作る能力が大きく失われる病気であり、基本的には継続したインスリン治療が必要です。
また、同じ2型糖尿病であっても、全員が寛解できるわけではありません。
糖尿病になってからの期間、膵臓のインスリン分泌能力、体重、年齢、合併症、治療内容などによって寛解の可能性は異なります。
なぜ体重を減らすと糖尿病が改善するのでしょうか?
2型糖尿病、特に過体重や肥満を伴っている方では、体重管理が非常に重要です。(※2)
体重が増え、内臓脂肪などが増加すると、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が強くなります。
すると膵臓は、血糖を下げるためにより多くのインスリンを出さなければならなくなります。
この状態が長期間続けば、膵臓にも大きな負担がかかります。
イメージすると
体重・内臓脂肪が増える
↓
インスリンが効きにくくなる
↓
膵臓が大量のインスリンを分泌する
↓
膵臓への負担が増える
↓
血糖値が上がりやすくなる
逆に、適切に体重を減らすことでインスリンの効きが改善し、血糖値が大きく改善することがあります。(※2)

実際に減量で糖尿病が寛解した研究があります
2型糖尿病の寛解について非常に有名なのが、英国で行われたDiRECT試験です。(※3)
比較的糖尿病になってからの期間が短い2型糖尿病患者さんを対象に、集中的な体重管理を行ったところ、1年後には介入群の46%が寛解に到達しました。(※3)
さらに重要なのは、寛解の可能性がどれだけ体重を減らし、その体重を維持できたかと強く関係していたことです。(※4)
ここで誤解してほしくないポイント
「15kg痩せれば全員糖尿病が治る」という意味ではありません。必要な減量幅や治療方法は患者さんごとに異なり、急激な減量が適切ではない方もいます。
DiRECTの5年間の追跡でも、長期的な寛解を維持するためには体重を維持することの難しさと重要性が示されています。(※5)
糖尿病の寛解を目指すために重要な5つのこと

1.まず「自分の糖尿病の状態」を知る
まず確認したいのが、現在どの程度糖尿病が進んでいるかです。
- HbA1c
- 空腹時血糖
- 体重・BMI
- 血圧
- LDLコレステロールなどの脂質
- 腎機能(eGFR)
- 尿アルブミン
などを確認します。
糖尿病は血糖値だけを見る病気ではありません。
心筋梗塞、脳卒中、腎臓病、網膜症、神経障害などを予防するため、全身を評価することが大切です。
2.体重を適正化する
過体重や肥満がある2型糖尿病の方では、体重を減らすことで血糖改善が期待できます。(※2)
ただし、目標体重は全員同じではありません。
もともとの体重、年齢、筋肉量、使用している薬、腎機能などによって適切な目標は異なります。
特に高齢の方が過度に体重を落とすと、筋肉まで減ってしまい、サルコペニアや転倒につながる可能性があります。
「とにかく痩せればいい」のではなく、その人に合った減量が大切です。
3.食事は「糖質をゼロにする」ことが目的ではありません
糖尿病というと、
「ご飯を食べてはいけませんか?」
「糖質を全部抜いた方がいいでしょうか?」
という質問もよくいただきます。
糖尿病治療の食事は、単純に糖質をゼロにすることが目的ではありません。
重要なのは、摂取エネルギー、栄養バランス、食物繊維、食事の質、間食や飲み物、そしてその方が長期的に続けられるかを総合的に考えることです。(※6)
短期間だけ無理な食生活をするより、半年、1年、5年と続けられる方法を見つけることが重要です。

4.運動は「血糖を下げる薬」のような役割があります
運動すると筋肉でブドウ糖が利用されやすくなり、インスリンの効きも改善します。
ウォーキングなどの有酸素運動に加え、可能であれば筋力トレーニングを組み合わせることも有効です。(※6)
ただし、心臓病や網膜症、神経障害、足病変などがある方では、適した運動が異なります。
これまであまり運動していなかった方が、いきなり激しい運動を始める必要はありません。
まずは「今より少し動く」というところから始めてみてください。

5.必要な薬はきちんと使う
「寛解を目指すなら、薬を飲まない方がいいのでは?」
そう思われるかもしれません。
しかし、これは逆です。
血糖値が高い状態を放置することは、血管や腎臓、神経などに負担をかけます。
必要な時期には適切な薬を使って血糖を改善することが重要です。
現在は、単に血糖を下げるだけではなく、患者さんの心血管疾患、心不全、慢性腎臓病、肥満などを考慮しながら糖尿病薬を選択する時代になっています。(※7)
薬を減らすことそのものを目標にするのではなく、まず将来の合併症を防ぎ、健康な状態を長く保つことを優先してください。
「薬をやめること」が糖尿病治療のゴールではありません
ここは私が診療で特に大切にしている部分です。
患者さんから、
「先生、薬を減らしたいです」
「薬を飲まない状態にしたいです」
と言われることがあります。
もちろん、生活習慣が改善して血糖値が下がり、結果として薬を減らせるのであれば、とても良いことです。
しかし、薬を減らすこと自体が目的になってはいけません。
糖尿病治療の本当の目的は、HbA1cの数字だけをきれいにすることでも、薬をゼロにすることでもありません。
心筋梗塞、脳卒中、腎不全、失明などの合併症をできるだけ防ぎ、元気に生活できる期間を長くすることです。

寛解しやすいのはどんな人?
研究からは、特に次のような場合、寛解を達成できる可能性が比較的高いと考えられます。(※3)(※4)
- 2型糖尿病になってからの期間が比較的短い
- 過体重・肥満があり、十分な減量ができる
- 減らした体重を維持できる
- 膵臓のインスリン分泌能力がある程度残っている
ただし、これらに当てはまらないからといって治療に意味がないわけではありません。
寛解に至らなくても、HbA1c、血圧、脂質、体重などを良好に管理することによって、将来の合併症リスクを下げることが重要です。

寛解したら、もう病院に行かなくてもいい?
いいえ。
これは非常に重要です。
糖尿病が寛解しても、再び血糖値が上昇する可能性があります。
国際コンセンサスでも、寛解後もHbA1cなどを定期的に確認し、糖尿病合併症について継続して評価することが推奨されています。(※1)
「薬がなくなった=糖尿病のことを完全に忘れてよい」ではありません。
むしろ、良い状態を維持するための定期的なメンテナンスが大切です。
よくある質問

Q.糖尿病は一度なったら一生治りませんか?
A.2型糖尿病では「寛解」を目指せる方がいます。ただし、再び血糖値が上昇する可能性があるため「完全に治って二度と検査が必要ない」という意味ではありません。
Q.何kg痩せれば糖尿病が治りますか?
A.「○kg痩せれば必ず寛解する」という数字はありません。大きな減量ほど寛解率が高くなる傾向は研究で示されていますが、必要な減量量は現在の体重や糖尿病の期間などによって異なります。
Q.HbA1cが6.5%未満なら糖尿病は治っていますか?
A.それだけでは寛解とは判断できません。国際的な定義では、通常の血糖降下薬を使用せずHbA1c 6.5%未満が少なくとも3か月続いていることが基準となります。(※1)
Q.薬を飲んでHbA1cが正常なら寛解ですか?
A.国際コンセンサス上の「寛解」とは区別します。ただし、薬を使用して良好な血糖値を維持できていること自体は非常に良い治療結果です。
Q.糖質を完全に抜けば寛解できますか?
A.糖質を完全に抜けば必ず寛解できるわけではありません。長期間続けられる食事内容と適切な総摂取エネルギー、体重管理を考えることが大切です。
まとめ:目標は「糖尿病を忘れること」ではなく、良い状態を長く保つこと
2型糖尿病は、以前は「一度なったら一生治らない」と説明されることも多かった病気です。
しかし現在では、特に比較的早期の2型糖尿病で、適切な体重管理などによって「寛解」という状態を達成できる方がいることがわかっています。(※3)(※4)
ただし、寛解は「もう糖尿病のことを一生気にしなくてよい」という意味ではありません。
大切なのは、
- 血糖値を適切に管理する
- 必要であれば体重を減らす
- 食事と運動を長く続けられる形にする
- 必要な薬は適切に使用する
- 血圧・脂質・腎臓も一緒に管理する
- 良くなった後も定期検査を続ける
ことです。
「糖尿病になったから、もう遅い」と考える必要はありません。
今の状態をきちんと把握して、できるところから治療を始めることが、5年後、10年後の健康を守ることにつながります。
糖尿病・HbA1cについてお困りの方へ
「健康診断で血糖値を指摘された」「HbA1cがなかなか下がらない」「できるだけ合併症を予防したい」という方は、一度ご相談ください。現在の血糖値だけでなく、体重・血圧・脂質・腎機能なども含めて総合的に診療します。

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参考文献
※1 Riddle MC, et al. Consensus Report: Definition and Interpretation of Remission in Type 2 Diabetes. Diabetes Care. 2021;44:2438-2444.
※2 American Diabetes Association Professional Practice Committee. Obesity and Weight Management for the Prevention and Treatment of Type 2 Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1).
※3 Lean MEJ, et al. Primary care-led weight management for remission of type 2 diabetes (DiRECT): an open-label, cluster-randomised trial. Lancet. 2018;391:541-551.
※4 Lean MEJ, et al. Durability of a primary care-led weight-management intervention for remission of type 2 diabetes: 2-year results of the DiRECT trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2019;7:344-355.
※5 Lean ME, et al. 5-year follow-up of the randomised Diabetes Remission Clinical Trial (DiRECT). Lancet Diabetes Endocrinol. 2024.
※6 American Diabetes Association Professional Practice Committee. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1).
※7 American Diabetes Association Professional Practice Committee. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1).
参考:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」「糖尿病治療の手びき2026」



