管理栄養士が伝えたい!耐糖能異常の怖さと改善方法3選
甘く考えないで!耐糖能異常!
あまが台ファミリークリニック管理栄養士の小笠原です。
今回は耐糖能異常について一緒に考えていきたいと思います。
健康診断や特定検診などで、
- 「今は問題ないけど、少し血糖値が高め」
- 「HbA1cが基準より高いから、耐糖能異常だね」
- 「糖尿病予備軍の可能性がある」
などと指摘を受けたことはありませんか?
このような指摘を受けたことがある方、実は注意が必要なんです。
なぜ注意が必要なのか、どうすれば良いのかを一緒に考えていきましょう!!
耐糖能異常とは
糖尿病予備軍とは、血糖値が正常ではなく、でも糖尿病ではない、その中間の境界型糖尿病のことです。
この「境界型」とは、どんな状態のことでしょう?
それは、血糖値が正常とも糖尿病とも言えないグレーゾーンの範囲にあるということです。
WHO(世界保健機関)を始めとした海外では「耐糖能異常」という病名が用いられています。
「耐糖能」とは、糖に耐える能力を示した言葉です。つまり、血液中の糖をいかに正常に戻す力があるかと言うことです。
食物は、体内で消化吸収され血液中にブドウ糖として増加してきます。
このブドウ糖は、すい臓から分泌されるインスリンの作用で栄養分として細胞の中へ取り込まれます。
そうして、血液中からブドウ糖は減っていくのです。
このように体内では、食事によって増加した血液中の糖分を、正常へ戻す働きが存在しています。
また、食事をしなくても、体内には肝臓をはじめ脂肪などに栄養分を蓄積してあり、食後数時間以後は、この栄養分を利用しています。
インスリンはこういった栄養分の出し入れにも働き、血糖値を正常に保つよう働いているのです。
こういった一連の作用を通じて血糖値を正常に保つ働きを「耐糖能」と言います。
そのために血液中のブドウ糖の量が増加し、高血糖の状態になることをいいます。
診断基準は
空腹時の血糖値が 110~125mg/dlの場合、耐糖能異常とされる
※空腹時血糖が126 mg/dlの場合、他の診断基準と合わせて糖尿病が確定される
耐糖能を調べるには、「経口75gブドウ糖負荷試験」という検査をします。
方法は簡単で、空腹時に75gのブドウ糖を含んだジュースを飲んで、血液中の糖の値や血液中のインスリンの値を(2時間後まで)時間をおって調べるのです。
通常であれば、空腹でジュースを飲んだ後、ブドウ糖は腸管より吸収されて血液中に入るため血糖値は上昇しますが、すぐにインスリンが分泌されるため、血液中の糖の値は減少し、やがて正常化します。
「境界型」と判定されます。この境界型に当てはまる人が耐糖能異常、糖尿病予備軍ということです。
境界型の場合、食後は血糖が上がり、空腹時はまったく正常なこともあります。
このレベルの血糖値では糖尿病に特有の合併症は起こりにくいので、糖尿病と診断はされません。
症状は
耐糖能異常では、軽度の場合は自覚症状がないこともあります。
・尿量が増える
血液中のブドウ糖が増える、高血糖の状態が続くと、腎臓が糖を水分と共に体外に排出しようとするため尿量が増加します。
・のどの渇きがある
高血糖により糖が水分と共に排出されるため、体は脱水状態になり、のどの渇きを感じることがあります。
・食べてもお腹が空く感じがする
食後に血糖値が急上昇すると、体内では血糖値を下げるためにインスリンの働きが活発になります。これによって血糖値が激しく上下するため、食欲をコントロールするホルモンが上手く作用せず、「食べたばかりなのにお腹が空く」と感じる状態を招きます。
・倦怠感や疲れやすさを感じる
通常、体はブドウ糖をエネルギー源として取り入れますが、高血糖状態でインスリンが正常に働かない場合は、ブドウ糖を血液に取り込むことが出来ず、体がエネルギー不足を感じます。これが「疲れやすい」「だるい」と感じる状態を作り出します。
・尿にタンパクが出る
血糖値が高い状態が続き、血液をろ過する働きのある腎臓の血管が痛むと、ろ過機能が弱くなるため、血液内のタンパク質が尿に混ざって排出されるようになります。
・むくみが出る
高血糖が続くと血管が傷み、血液中の水分が血管外にしみ出るようになります。それにより皮下の余分な水分によって腫れが起こる、むくみが引き起こされます。
以上の症状があります。
耐糖能異常の怖さ
糖尿病へ進行
耐糖能異常の指摘を受けていても自覚症状がなく、改善への意識も感じにくいため、やはり糖尿病への進行への可能性がとても高いです!!
オランダでの研究によると、空腹時血糖値とブドウ糖負荷試験の両方で
女性の75%
男性の53%
が8年間に2型糖尿病に進行した
というのです。「気が付いた時には糖尿病になっていた」
このようなことが起きてしまうので、耐糖能異常の指摘を受けた時が生活習慣を見直すタイミングだと考えていただきたいと思います。
動脈硬化を発症
と、不思議に思われる方もいるかもしれませんが、実は糖尿病も動脈硬化を起こすリスクがとても高いんです!!
動脈硬化とは、動脈の内壁に脂肪やカルシウムなどの物質が蓄積し、その結果、動脈が固くなり、狭窄する症状のことです。
動脈硬化で起こる病気は、
・心筋梗塞
・脳出血
・脳梗塞
等があります。
動脈硬化を起こす原因として、
・高コレステロール
・喫煙
・肥満
・遺伝的要因
など多くの原因が関わっています。
その中でも、大きな要因として糖尿病があるんです。
実は耐糖能異常が始まった時点から、動脈の内壁が厚くなることが分かっています。
2型糖尿病は急に発症するわけではなく、耐糖能異常が起き始めて6~10年程度かけて糖尿病へ進行すると言われています。
2型糖尿病の診断を受けた10年程度前から、もしかしたら動脈硬化が始まっていたかもしれない。。。
なんて、想像しただけで怖くなりませんか?
ぜひ定期的な受診や検査をお願いします。
やせ型の女性も注意
近年増えているのが、やせ型女性の2型糖尿病です。
以前は糖尿病は、肥満やメタボリックシンドロームの方が罹りやすいイメージだと思います。
順天堂大学が、痩せた若年女性を対象に耐糖能異常の研究をしたところ、標準体重者に比べて耐糖能異常の割合が顕著に高かったと発表しています。
このやせ型若年女性の特徴は
- 食事量が少ない
- 糖質からのエネルギー摂取の割合が少なく、脂質からの摂取割合が高い
- 運動量が少なく、筋肉量が少ない
になります。
食事量が少ないこと(カロリー不足)は、肥満と真逆に思いますが、これも実は耐糖能異常の原因になるのです。
エネルギーが不足すると、体は自分の脂肪や筋肉を分解してエネルギーにしようとするので、糖質を体にため込む働きが強くなるのです。
また脂質の摂取割合が高いことで、脂肪組織から遊離脂肪酸が体中に溢れ出て、全身に散らばっている状態であることも分かりました。
これらのことから、インスリン分泌が低下しているだけでなく、インスリン抵抗性・脂肪組織障害も中年肥満者と同程度生じていることから、やせ型の若年女性の糖代謝障害は糖尿病発症のリスクを有する可能性が高いことが明らかになりました。
体形を保つために、食事量を控えている、糖質を控えているという方も、反対に注意が必要だという結果がでました。
しかし、食後高血糖の患者に対して指導を行った結果、
- 糖尿病の発症約→25%リスク低下
- 高血圧発症→34%リスク低下
- 心筋梗塞発症→91%リスク低下
- 全血管疾患発症→49%リスク低下
食後高血糖・境界型への方の生活習慣の改善を行うことで糖尿病の発症予防と心血管病抑制に有効だということも分かっています。
では、どうすれがいいのか一緒に考えていきましょう!!
改善方法3選
運動をしよう
日頃から運動をする習慣はありますか?
運動と聞いて、どんなことをイメージしますか?
・ウォーキング
・腹筋
・スクワット
・ジョギング
・スイミング
などをイメージされる方も多いかと思いますが、運動にも種類があります。
・有酸素運動
筋肉を動かすエネルギー源として糖質・脂質と酸素を使う運動のことです。
筋肉への負荷が比較的軽く、長時間継続できる運動のことです。
脂肪燃焼効果、生活習慣病の予防・改善などの効果が期待できます。
例えば、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などのことです。
・レジスタンス運動(無酸素運動)
筋肉に負荷をかける動きを繰り返して行う運動のことです。
筋肉量の増加、筋力の向上、持久力の向上などの効果が期待できます。筋トレがここに分類されますね。
例えば、スクワット、腕立て伏せ、腹筋、ダンベル体操になります。
大きくイメージしてこの2種類を思い浮かべる方も多いと思いますが、実はストレッチやバランスを取る練習をすることも運動になります。
倒れにくい椅子や壁を使ってバランス運動も取り入れてみましょう!!
ビタミンカラーの野菜で元気UP!!
血糖をコントロールしていくために、野菜を食べましょう!!と良く聞くかと思います。
野菜を食べる理由として、食物繊維を多く取り入れることで血糖のコントロールを良好な状態に保つことができるからです。
「野菜は食べていますか?」とお聞きすると
「キャベツ・レタスを食べています」
「玉ねぎを食べています」
と答えてくださる方が沢山います。
もちろん、キャベツ・レタス・玉ねぎは食物繊維が豊富で水分も多く含んでいるため、とても大切です。
ぜひ継続して食べていただきたいのですが、そこにプラスして頂きたいのがカラフルなビタミンカラーの野菜になります。
カラフルな野菜のことを「緑黄色野菜」と言います。
緑黄色野菜の栄養素と効果
厚生労働省では緑黄色野菜は原則して「可食部100gあたりに含まれるβ-カロテンが600μg以上のもの」と定義されています。
β-カロテンとは植物の色素で、体内でビタミンAに変わる物質の中の「カロテン」の1種になります。
って言われても分かりにくいかと思います。
人参やトマト、南瓜、ピーマン、ほうれん草などをイメージしていただきたいと思います。
色がカラフルなので、見ているだけで元気が出てきそうですよね。
β-カロテンには、「抗酸化作用」があり、体の酸化を防ぐ作用があります。
体が酸化していくとどうしていけないのでしょう?
健康な細胞を傷つけて、
- 老化
- 免疫機能の低下
- がん
- 動脈硬化
などの様々な病気の発症を引き起こしたりしてしまうからです。
このような酸化を防止してくれるのが、β-カロテンになります。
β-カロテンは体内でビタミンAとして働きます。
ビタミンAは目の機能や皮膚、粘膜を正常に保つ働きや成長に関与しています。
カラフル野菜には他にも、ビタミンKが豊富に含まれています。
ビタミンKは出血した時に血液が固まって流血を止める働きに関わる「血液凝固因子」を作ることを助ける働きや、骨の形成、動脈が固くなるのを防ぐ役割があります。
ビタミンA、ビタミンKは「脂溶性ビタミン」と言われています。
脂溶性ビタミンは油と相性が良く、一緒に調理することで成分が吸収されやすくなります。
そのまま食べる時は少し油をかけたり、加熱に強いため炒め物、焼き物にも向いています。
ビタミンA、ビタミンKが特に多く含まれている野菜です。
ビタミン | 野菜 |
ビタミンA
|
人参、モロヘイヤ、ほうれん草、南瓜、大葉、春菊、にら |
ビタミンK | ほうれん草、ブロッコリー、トマト、モロヘイヤ、小松菜 |
脂溶性ビタミンは過剰に摂ってもすぐに排出されにくいため、体内に蓄積されやすい栄養素になります。
野菜から摂る脂溶性ビタミンでは、ほとんど過剰症がないと言われています。
しかし、ビタミンAが豊富に含まれている食材に、レバー・うなぎなどもあります。
動物性の脂溶性ビタミンでは吐き気や頭痛などといった症状(過剰症)を引き起こす場合があるので、食べすぎには気をつけてくださいね。
野菜の1日の摂取目安
野菜の1日の目安量は350gです。1食は120g程度とされています。
色の薄い野菜とカラフル野菜のバランスは2:1が目安になっています。
ですので、1日に色の薄い野菜を230g程度、カラフル野菜を120g程度取り入れるように心がけてみましょう!
120gの目安は
生野菜は両手1杯分
加熱した野菜は片手1杯分
になります。
魚を食べよう
血糖コントロールを行っていくために、活動量を増やしてほしいとお話をさせていただきました。
大切になってくるのが、たんぱく質になります。
たんぱく質は体を作るのに必要な栄養素になります。
たんぱく質とは、筋肉、臓器、皮膚、髪など体を作る材料になるほか、ホルモンや酵素など体内で生命活動を支える物質の材料にもなっています。
食材としては、肉類、魚類、卵、乳製品、大豆製品になります。
そして今回、注目したい食材は、魚類になります。
国立がん研究センターから、日本人を対象として魚介類の摂取と糖尿病の関連について調査した研究が発表されています。
その結果、魚介類の摂取が多いほど糖尿病の発症リスクが低下する傾向が認められ、摂取量が最も少ない群に比べ最も多い群では糖尿病のリスクが約3割低下していました。
特に、あじ・いわし、さんま、さば、うなぎなどの小中型魚、鮭、ます、あじ、いわし、さんま、さば、うなぎ、鯛類などの脂の多い魚で糖尿病のリスクが低下する傾向にあることが分かりました。魚には、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患を予防する効果があるとされる良質な不飽和脂肪酸が含まれています。
魚に含まれるのは、オメガ-3系多価不飽和脂肪酸であるEPA(イコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)です。
EPA(イコサペンタエン酸)の働きは、青魚に多く含まれていて、血液の流れを妨げるLDLコレステロールや脂肪を減らす働きをします。
動脈硬化や心筋梗塞を、脳梗塞などを予防する効果があります。
DHA(ドコサヘキサエン酸)の働きは、人間の脳の細胞を作る大切な栄養素です。
また、脳の働きを活発にすることにより、記憶力や学習能力を高めたりする効果が期待できます。青魚に多く含まれています。
オメガ-3系脂肪酸を摂ることで、インスリン分泌やインスリン抵抗性を改善するという効果が期待できることが分かりました。
そして、魚類には忘れていけない栄養素も豊富に含まれています。それはビタミンDです。
ビタミンDの働きは、カルシウムの吸収を助け、血液中のカルシウムうぃ骨まで運ぶ手伝いをして、カルシウムが骨に沈着するのを助ける役割があります。
他にも重要な役割があり、
- 免疫力アップ
- がんの抑制
- 妊娠しやすい体つくり
- 花粉症の改善
に有効な可能性があるとされています。
ビタミンDが豊富な魚類は、鮭、いわし、かつおなどです。
そして、もう1つアスタキサンチンといって、強い抗酸化作用を持っていることも特徴的です。
鮭や海老、蟹などに含まれる赤い色素のことです。
これもカロテノイドの1種で、②ビタミンカラーの野菜で元気UPでお話させていただいた効果と同じ効果を得ることができます。
魚には他にも、他にもカルシウムやタウリンも多く含まれています。
魚類を食べる頻度をぜひ見直してみましょう!
まとめ
①診断基準
②症状
①糖尿病へ進行
②動脈硬化を発症
③やせ型の女性も注意が必要
①定期的な運動を取り入れよう。筋力UP
②ビタミンカラーの野菜で元気UP
③魚を食べて、血管年齢を若々しく
今回は耐糖能異常の怖さについてご紹介させていただきました。
この指摘を受けた時点で、油断せずに生活習慣・食習慣・運動習慣を見直すタイミングになっていただけたら嬉しいです
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
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参考・引用文献
・日本人低体重若年女性の耐糖能障害(IGT)の割合と特徴
佐藤元律, 田村好史, 中潟崇, 染谷由希, 加賀英義, 山﨑望, 木屋舞, 門脇聡, 杉本大介, 佐藤博亮, 河盛隆造, 綿田裕孝
・e-ヘルスネット
・糖尿病ネットワーク